杜牧の詩 06 晩唐 352 杜牧詩
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笙歌登畫船,十日C明前。
山秀白雲膩,溪光紅粉鮮。
欲開未開花,半陰半晴天。
誰知病太守,猶得作茶仙。
春日茶山病不飲酒因呈賓客
春の日の茶畑の山(の歌)で、病(やまい)になったため、酒を飲めなくなったため、賓客に(この詩を)差し出した。一番茶の茶摘み行事に刺史として賓客を連れて参加した時のもの。「茶摘み」そのものに参加するのではなく「踏青」(郊外へのピクニック)として酒食を持って出かける風習がある。
・春日:(清明節前のうららかな)春の日。 ・茶山:茶畑の山。 ・病:病になる。動詞。 ・不飲酒:酒が飲めない。 ・因:よって。そのために。 ・呈:示す。差し出す。 ・賓客:〔ひんかく(きゃく)〕客人。門下の食客。太子の侍従をつとめて、その補導の任にあたる官。
1.笙歌登畫船
笙(しょう)の吹き手と歌い手をいろどりを施した遊覧船に乗せて。 ・笙歌:〔しゃうか〕笙(しょう)のふえと歌。笙に合わせて歌う。 ・登:乗る。 ・畫船:〔ぐゎせん〕いろどりを施した遊覧船。
2.十日C明前
(旧暦)二月十日の清明節の前(の茶摘みのピクニックだ)。 ・十日:旧暦二月十日。清明節(三月節)の前で「十日」は旧暦二月十日になる。新暦で三月十五日頃か。早春。 ・C明:清明節のこと。三月節。二十四節気の一つで、新暦の四月五、六日ごろに該る。清明節前に摘んだ茶葉を「明前茶」、「清明」(二十四節気の五番目:三月節)から「穀雨」(二十四節気の六番目:三月中(「清明」の15日後))までの茶葉を「雨前茶」という一番茶。緑茶は清明節に近い時期に摘むほどよいよされる。
3.山秀白雲膩
山は高くぬきんでて、白い雲はなめらかできめが細かくすべすべしている。 *句中の対でもある。第二聯(頷聯)、第三聯(頸聯)も同様。 ・秀:ぬきんでる。高く出る。のびでる。また、ひいでる。すぐれる。 ・膩:〔ぢ〕なめらか。きめが細かくすべすべしている。うるおってつややかである。きめの細かい。きれいである。
4.溪光紅粉鮮
谷川の水は(氷が張っていることなく、水が)燦(きら)めいて、(女性がべにおしろいをほどこしたように、)野山には赤や白に咲き乱れている花が色あざやかである。 ・溪:谷川。 ・紅粉:べにおしろい。女性の化粧を謂う。ここでは、清明節前の野山の赤や白に咲き乱れている花を指している。 ・鮮:あざやかである。
5.欲開未開花
(野辺の花や、茶摘みをする若い女性の姿は)花開くようでもあるが、充分には開ききっておらず(まだ青さがあり)。 *杜牧は『贈別二首』其一「娉娉嫋嫋十三餘,荳梢頭二月初。春風十里揚州路,卷上珠簾總不如。」や、『張好好詩』「君爲豫章,十三纔有餘。」でも開ききる手前の女性を愛する。 ・欲開:(花が)開こうとして。 ・未開花:まだ花が開ききらない。
6.半陰半晴天
(天候は)半ばは曇(くも)って、半ばは晴れている(という茶摘み日和である)。 ・半陰:半ば曇(くも)る。 ・陰:曇(くも)り。曇る。 ・半晴天:半分(空が)晴れている。
7.誰知病太守:誰も知るまいが、(この)病気の太守(作者・杜牧)が。 ・誰知:だれが知ろうか。だれも分かるまい。 ・太守:郡の長官。作者の杜牧を指す。当時、杜牧は一つ上の州(湖州)の刺史に任じられていた。
8.猶得作茶仙
ちょうど(「酒仙」ならぬ)「茶仙」となることができたのを。 *「本日の茶摘み・「踏青」では、お酒のお相伴はできないので、お茶でもってお相手を致しましょう」ということ。 ・猶:ちょうど…のようだ。なお…ごとし。なお。それでも。…すら。…さえ。まだ。やはり。 ・得:得る。 ・作:(…と)なる。 ・茶仙:酒が飲めないので「酒仙」を捩(もじ)って、「茶仙」とした
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江涵秋影雁初飛、與客攜壺上翠微。
塵世難逢開口笑、菊花須插滿頭歸。
但將酩酊酬佳節、不用登臨恨落暉。
古往今來只如此、牛山何必獨霑衣。
九日齊山登高:九月九日の重陽の日に(刺史として赴任していた池州(現・安徽省貴池(県にある)齊山(せいざん)に登った。 ・九日:ここでは、陰暦九月九日の重陽の日のこと。 ・齊山:〔せいざん〕池州(現・安徽省貴池(県)。江州と南京の中間点で、長江南岸)の東南3キロメートルのところにある。 ・登高:九月九日の重陽の日の風習で、高い山に登り、家族を思い、菊酒を飲んで厄災を払う習わし。高きに登る。
1.江涵秋影雁初飛
:長江は秋景色を水にひたす(かのようにして映して)、雁が初めて飛びたち、(秋の季節が深まっていく時)。 ・江:ここでは、長江のことになる。 ・涵:〔かん;han2○〕ひたす。水につける。 ・秋影:秋げしき。 ・雁初飛:(渡り鳥の)雁が初めて飛びたったことで、秋の季節が深まっていく様をいう。
2.與客攜壺上翠微
:客人と、酒壷を携(たずさ)えて山の中腹まで上った。 ・與-:…と。 ・客:招き呼んだ人。きゃく。人士。ここでは、刺史の幕客のことになろうか。 ・攜壺:酒壷を携(たずさ)えて。 ・上:のぼる。 ・翠微:山の中腹、八合目あたりをいう。
3.塵世難逢開口笑
:穢(けが)れた人間世界では、口を大きく開けて(心から朗らかに)笑うことにも、出逢うことがなかなか無いので。 *「塵世難逢開口笑」と「菊花須插滿頭歸」とは対句なので、読み下しを揃えるべきだが【「難…」(…すること難(かた)し)】と【「須…」と(須(すべか)らく…べし)】との部分では、国語(日本語)の方が対応していないので対は不可能なところ。 ・塵世:〔ぢんせい〕穢(けが)れた世。人間世界。 ・難逢:出逢うことがなかなか無い。 ・開口:口を大きく開けて(朗らかに笑う)。
4.菊花須插滿頭歸
:(邪気を祓う)キクの花を頭いっぱいにさしはさんで、帰るようにしなければならない。 ・菊花:邪気を祓うとされるキクの花。古來、キクの花は邪気を祓うという習わしがあり、屡々菊酒として紹介されている。 ・須:しなければならない。…することが必要である。すべからく…べし。 ・插:〔さふ;cha1●〕さす。さしこむ。さしはさむ。ここでは、花をかんざしにする意。 ・滿頭:頭いっぱいに(…する)。「滿頭歸」は「滿頭而歸」のこと。
5.但將酩酊酬佳節
:ただ酩酊でもって、(素直に)めでたい日を迎えるべきであって。 *ただ素直に祝日を祝えばいいのであって。 ・但:ただ。 ・將:…を(以て)。 ・酩酊:〔めいてい〕ひどく酔う。 ・酬:〔しう;chou2○〕受けたおかえしをする。(恩誼に)むくいる。(「仕返し」の意は無い)。 ・佳節:おめでたい日。節日。祝日。ここでは、陰暦九月九日の重陽の節を指す。
6.不用登臨恨落暉
:高い所に登って、夕陽を眺めて心残りを歎くようなことは、なさらないように。 ・不用:…なさるな。軽い禁止の語気を持つ表現。(…を)用いないで…。 ・登臨:山に登り水に臨む。高い所に登って、下方ををながめる。転じて、帝位に即(つ)いて人民を治める。 ・恨:うらむ。心残り、うらみの極めて深いこと。自分に対してのことば。蛇足になるが、「怨」は人をうらむこと。夕陽に心が乱れる詩歌は多い。
7.古往今來只如此
:(人の生死というものは)昔から今まで、(変わることなく)ただかくのとおり(自然の摂理)であって。 ・古往今來:〔こわうこんらい〕昔から今まで。往古來今。 ・只:ただ…のみ。 ・如此:かくのとおり(である)。かようである。
8.牛山何必獨霑衣
:(春秋時代、斉の景公が)牛山に(遊び、人の生死の儚(はかな)さを歎いて)涙で衣を濡らした(歎き)などは、必ずしも必要とはしないのだ。 ・牛山:現・山東省臨?県の南にある山。斉の都の南東にある。この牛山に春秋・斉の景公が遊び、北の方にある都を望んで、涙を流して「どうして人はこんなにばたばたと死んでいくのか」と人の死を歎いたところ。 ・霑:〔てん;zhan1○〕うるおす。湿らす。ここでは、涙で濡らすことをいう。
九日 齊山せいざんに登高す
江は秋影を涵して 雁 初めて飛び、
客と壺を攜たづさへて翠微すゐび に上る。
塵世逢ひ難し 口を開きて笑ふに、
菊花須すべからく 滿頭に插して歸るべし。
但 酩酊を將って 佳節に酬い、
用ず 登臨 落暉を恨むを。
古往 今來 只 此くの如く、
牛山に何ぞ必ずしも獨衣を霑うるほさん。
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