杜牧の詩 05 晩唐 352 杜牧詩
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勝敗兵家事不期、包羞忍恥是男兒。
江東子弟多才俊、捲土重來未可知。
題烏江亭
安徽省の長江北岸にある。恥を知る項羽に、自分の考えをもって語りかけている。
・烏江:安徽省東部を流れる川であり地名。南京の東南50キロメートルのところに項羽を祀る覇王祠、烏江廟がある。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「淮南道」にある。ここの東50キロメートルの南京は、過去には、建康、建業、金陵…といわれた古都。烏江亭とは、下出『史記』に出てくる、長江の畔にある渡河するための宿場町。項羽はここ烏江亭で、亭長から「江東へ逃れて再起を図れ」と勧められたが、「何の面目があって、江東の父兄に顔が会わせられようか」といって断り、自刎する。古来よく取り上げられ、現在に至るまで伝えられている名場面である。李C照も『烏江』で、やはり項羽を詠っている。
1.勝敗兵家事不期
勝敗は兵家の常であって、結果を予期することはできない。
・勝敗:戦争の勝ち負け。
・兵家:軍人。兵法家。
・事不期:予期することができない。予期できる事柄ではない。
・期:〔動詞〕あてる。目当てをつける。
2.包羞忍恥是男兒
羞を克服し、恥を堪え忍んでこそ、一人前の男である。
・包羞忍恥: ・羞:はじらう。はずかしくて人に顔をあわせられない。
・恥:はじる。反省して恥ずかしく思う。ここでは「羞」と「恥」の順は入れ替えられない。「包羞忍恥」で「○○●●」であり、もし、「包恥忍羞」とすれば「○●●○」 となり、「○○」と「●●」とが、交互に並んでいる平仄律の美しさやリズム感が、損なわれる。
・是男兒:それでこそ立派な男である。
・是:強意の助辞。…である。前出の「包羞忍恥」がこの句の主部となる。
3.江東子弟多才俊
烏江の東側にある項羽の根拠地には兵士となる人材が多い。
・江東子弟:烏江の東側にある項羽の根拠地の父老、父兄の児子。項羽にとっての味方の人民。自軍の兵士となる人材。前出『史記・項羽本紀』に基づく。
・多才俊:優れた人材が多い。
・才俊:才能にひいでた人物。
4.捲土重來未可知
砂塵を巻き起こす勢いで、再び攻め上って来ていれば、その結果はどうなったかは、分からない。
・捲土重來:砂塵を巻き起こす勢いで、再びやってくる。
・未可知:まだ知ることができない。その結果はどうなるかは、まだ出ていないので、知ることができない。
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銀燭秋光冷畫屏、輕羅小扇捕流螢。
天階夜色涼如水、臥看牽牛織女星。
秋夕
秋の宵。秋の夜。『七夕』ともする。秋の宵をやるせなく過ごす宮中(「天階」より分かる)の女性(「輕羅」で暗示し、謝の『玉階怨』 にもある「流螢」より分かる)の失寵(「輕羅小扇」で、班、の『怨詩(怨歌行)』を暗示している)の様子を詠う。同時に、作者自身が意を得られない鬱懐をも暗にいっている。
1.銀燭秋光冷畫屏
(精製された)白いロウソクで(照らし出された)秋の風光は、(秋の冷気や秋風で)絵が描かれている屏風を冷やして。
・銀燭:白いロウソク。灯油を使った明かりではなく、精製された蝋によって作られた高価な明かり。
・秋光:秋の景色。秋の風光。この詩は、七夕の情景を詠んでいるが、現代の暦とは異なり、七夕は暦の上では夏の最終の節会で、後数日で秋となる気候であり、そのような暦上の位置にある。
・冷:ひやす。
・畫屏:絵が描かれている屏風。
2.輕羅小扇捕流螢
薄絹を張った軽やかな小さいおうぎで、飛び交うホタルをつかまえた。晩夏、初秋の夜の無聊で孤独なさまをいう。
・輕羅小扇:薄絹を張った軽やかなおうぎ。
・捕:つかまえる。とらえる。 ・流螢:飛び交うホタル。
3.天階夜色涼如水
宮中や天上世界とのきざはしは、水のように涼しくて。 *天上界、月にある広寒宮は、寒いという。
・天階:宮中のきざはし。詩詞では、天上界と宮中とは、しばしば重ねて表現される。辛棄疾 蘇軾 秦觀にもその例がある。
・夜色:夜の景色。夜景。夜の気配。
・涼:すずしい。気候や人間関係をいう。
・如水:水のようである。
4.臥看牽牛織女星
横になって、一年に一度の今夜に出会っている牽牛星と織女星を眺めている。 *よそは、佳会を愉しんでいるのに、ここには誰もやってこない、その寂しさをいう。 ・臥看:(ベッドに)寝ころんで見る。
・牽牛織女星:牽牛星と織女星。彦星と織り姫。七夕(たなばた)〔しちせき;qi1xi1〕の主役の星。一年に一度、この夜に出会える。
秋夕
銀燭の 秋光 畫屏 冷え、
輕羅の 小扇に 流螢 捕ふ。
天階の 夜色 涼きこと 水の如く、
臥して看る 牽牛 織女星。
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十載飄然繩檢外、樽前自獻自爲酬。
秋山春雨閑吟處、倚偏江南寺寺樓。
念昔游
昔の遊行をおもいおこす。
1.十載飄然繩檢外
この十年はふらふらと彷徨って、規範の外だった。
・十載:10年。この作品は四十代の初め頃の作か。
・飄然:ふらふらとして居所が定まらないさま。
・繩檢:規格。規律。規範。「繩」「檢」も、定規、さし、規準。縄尺、縄準。
・繩檢外:規準外。桁外れ。縄準の外。縄外。決まりの外。
2.樽前自獻自爲酬
酒を容れた物を前にして、自分で自分に酒を注ぎ、受けている。
・樽前:酒器を前にして。酒を飲む時。
・自獻:自分で自分に酒を注ぐ。手酌する。
・自爲酬:自分で(酒を)受ける。
3.秋山春雨閑吟處
秋の山に春の雨といったどの季節にも折々に詩を静かに口ずさみに行った処だ。
・秋山春雨:秋の山に春の雨。どの季節も。折々に。
・閑吟:詩歌などを静かに口ずさむ。
・處:場所。
4.倚江南寺寺樓
江南の方々の寺のたかどのにあまねく(登って手すりに)寄り添った(ものだった)。
・倚:(たかどのの手すりに)あまねく寄り添って。
・江南:中国の沿岸部の長江以南。
・寺寺:方々の寺。
・樓:たかどの。
念昔游
十載 飄然たり 繩檢の外、
樽前に 自ら獻じ 自ら 酬を爲す。
秋山 春雨 閑吟の處、
倚?ること し 江南 寺寺の樓。