杜牧の詩 02 晩唐 352 杜牧詩
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C明時節雨紛紛、路上行人欲斷魂。
借問酒家何處有、牧童遙指杏花村。
1.清明
清明節。新暦の四月四〜六日ごろのこと。「踏青」(郊外へのピクニック)の時期である。この詩は、気楽に思いつくままに歌いあげた感じのある素直な詩である。
2.C明時節雨紛紛
清明節で「踏青」(ピクニック)やお墓参りの時期の江南の春は、よく雨が降るものだが。
・C明:清明節。清明節は、二十四気の一で、春分から数えて十五日目(冬至から数えて百五日目)から三日間。先祖のお墓参りなどをする。新暦の四月四〜六日ごろになる。
・紛紛:(花や雪などが)散り乱れるさま。
3.路上行人欲斷魂
路を行く人(わたし)は、うんざりとなってきた。
・路上:路上。途上。
・行人:道を行く人。旅人。ここでは、作者自身をいう。
・欲:…んとする。…になろうとする。
・斷魂:(白話)(非常な感動・衝撃を受けて)魂がうっとりするさま。身に付かないさま。(古語)非常に心を痛めること。
4.借問酒家何處有
お尋ねするが、酒を飲ますところは、どこぞにあるのだろうか。
・借問:〔しゃもん〕少しお尋ねするが
・酒家:酒屋。酒を飲むところ。蛇足になるが、現代の酒家では美しい小姐がもてなすと聞くが…。
・何處有:どこかに(酒屋が)あるのか。どこかにないのか。
日本語の「ある」は、「有」または「在」で表される。
一口に言えば「有」は、有無・所有を表し、「在」は存在を表す。
在 「在何處」 「(某人は)どこにいるのか」。(所在、存在を尋ねている)
「何處在」 「(その事物は)どこにあるのか」。(存在、所在を尋ねている)
5.牧童遙指杏花村
牛飼いの少年は遙か向こうのアンズの花が咲いている村を指さした。
・牧童:羊飼いの少年。牛飼いの少年。
・遙指:遙か向こうを指さして。
・杏花村:アンズの花が咲いている村。杏花の村。固有名詞ではない。
この詩が元になって、「杏花村」は春景色の表現の一となったり、酒を飲ます所を指すようにもなった。
C明
C明の時節 雨 紛紛。
路上の行人 魂を斷たんと欲(ほっ)す。
借問(しゃもん)す 酒家 何れの處にか 有る,
牧童 遙かに指さす 杏花の村。
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折戟沈沙鐵未銷、自將磨洗認前朝。
東風不與周カ便、銅雀春深鎖二喬。
1.赤壁
三国時代の赤壁の戦いがあったところ。
呉の孫権、周瑜、蜀の劉備、諸葛亮が火攻め(自軍の船に薪や油を積んで火焔船とし、連結させて停泊していた敵船隊の中に突っ込ませた)で、魏の曹操の軍船を撃ち破った場所。湖北省嘉魚県の東北。長江の南岸。三国時代に呉の周瑜が対岸の烏林で魏の曹操を破ったところ。もっとも、杜牧が刺史として赴いたのは黄州(現・黄岡県)で、その近くにある赤壁とは蘇軾たちも勘違いした赤鼻の方で、ここでは、赤鼻磯の方のこと。
2.折戟沈沙鐵未銷
ほこを折り、やがて砂に埋もれて(いたものが、今日、現れたが、)鉄は、まだ錆びてぼろぼろにはなっていなかった。
・折戟:折れたほこ。嘗て戦闘があったことを言う。
・沈沙:砂の中に埋もれてしまった。赤壁の戦いから時間が経ったことをいう。
・銷:きえる。とける。『聯珠詩格』は音読みを採用しているので、それに従う。
・將:…を持つ。
3.自將磨洗認前朝
手に取り持って、きれいに磨いて、泥を洗い拭えば一昔前の時代のものと認められた。
・將:…をもって。(「以て」と「持って」の双方の意あり)。
・磨洗:きれいに磨いて、泥を洗い拭えば。
・前朝:以前の王朝。前の時代。
4.東風不與周郎便
もしも東風が周郎に味方しなかったら(周瑜の軍は敗れて)。
・東風:東の風。周瑜や諸葛亮が待ち望んだ東風。「只欠東風」の東風。
・與:ために。介詞。また、与(くみ)する。与(あづ)かる。味方する。
・不與:与(くみ)しない。与(あづ)からない。味方しない。ここは、介詞として働いてはいなくて、動詞として働いているか。
・周郎:周瑜のこと
・便:べん。便宜。便宜(を図る)。味方(する)。ここは名詞。前出の「(不)與」は動詞として働いており、「周郎便」を客語としている。
5.銅雀春深鎖二喬
曹操の宮殿である銅雀台は春深くして二喬を閉ざし込んでいる。
・銅雀:曹操の宮殿。銅雀台のこと。
・鎖:とざす。曹操の方が逆に戦いに勝って、打ち負かされた周瑜の妻である二喬(二橋)を自分の宮殿へ連れて返って、擒とすることをいう。
・二喬:二橋のこと。周瑜の妻。
赤壁
折戟沙に沈みて鐵未だ銷(しょう)せず、
自ら磨洗を將(もっ)て 前朝を認む。
東風 周郎の與(ため)に便せずんば、
銅雀 春深くして二喬を鎖(とざ)さん。
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山隱隱水遙遙、秋盡江南草木凋。
二十四橋明月夜、玉人何處ヘ吹簫?
1.寄揚州韓綽判官
揚州の韓綽判官に手紙や詩を郵送する。 *韓綽判官と楽しく遊んだ揚州の夜を思い出して詩にした。
・寄:詩詞を離れた人の許へとどけること。
・揚州:地名。江蘇省の長江北岸に位置している。京口(現・鎭江)の対岸で瓜州の附近。
・韓綽:人名。
・判官:唐代の官職名。
2.山隱隱水遙遙
青い山は霞んで、水面は遥かに遠くまで広々としている。
・山:ここでは、普通の青い山。
・隱隱:かすかで明らかでないさま。ぼんやりとしているさま。詩詞では山の形容として、隱隱をよく使う。
・水:川の流れ。川や湖の水面。
・遙遙:はるかに遠いさま。「迢迢」ともする。意味は同じ。
3.秋盡江南草木凋
秋が終わって、江南の草木は凋んで散ってしまった。
・秋盡:秋が終わって。
・江南:中国南部。長江下流以南の温暖多雨の地。
・草木凋:草木は(初冬の寒さで)凋んで散ってしまった。「草未凋」ともする。その場合は、意味は全く異なる。「草未凋」は、秋が盡きてもなおも草木は凋まない、という江南の温暖さを強調している。どちらが原初の形かを別とすれば、「草未凋」は、なかなかのものである。
4.二十四橋明月夜
揚州の二十四橋の明月の夜には。
・二十四橋:揚州の別名。唐代、市内に二十四の橋があったことから云う。我が国の大阪を「八百八橋」というようなものか。また、橋の名といて呉家橋、別名紅薬橋のことで、昔ここで、二十四人の美女が簫を吹いたという伝承から起こった名称とも云う。
5.玉人何處ヘ吹簫
(あの)美しい妓女たちは、どこで簫を教えていることだろうか。
・玉人:美人。ここでは、妓女を指している。或いは、風流才子の韓綽判官を指す。
・何處:どこで。いづこに。
・ヘ:おしえる(動詞:○)。…させておく。…するにまかせる。…にをさせる。…に…される。…しむ(使役:○)。ヘは両韻で、使役は現代語では去声(の発音)になるが、古語では平声となる。古語と現代語とで、捻れ現象を起こしている数少ない例。
・吹簫:簫を吹く。
揚州の韓綽判官に寄す
山 隱隱として 水 遙遙たり、
秋 盡きて 江南 草木 凋む。
二十四橋 明月の 夜、
玉人 何(いづ)れの處(ところ)にか 吹簫をヘ(をし)ふる?
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落魄江南載酒行、楚腰腸斷掌中輕。
十年一覺揚州夢、占得樓薄倖名。
1.遣懷
詩歌を作って憂さを晴らすこと。ここでは、若かった頃を懐憶している。
2.落魄江南載酒行
江南で放蕩して、酒を携帯して過ごしていたあのころ。江南で、荒れた気持ちで、いつも酒に浸っていたあのころ。
・落魄:(プレイボーイとして)自堕落な生活を送る。本来の意は、落ちぶれることだが、ここでは、杜牧が中央政界から離れて、各地で放縦な生活を送っていたことをふり返ってこういう。
・江南:中国長江南部。六朝時に栄えたところ。「江湖」ともする。その場合は「世の中」の意で、「落魄江湖」で「世間を流浪する」「さすらう」となる。意味は同じだがイメージが大きく異なる。
・載酒行:酒を(江南の船旅で、舟で)携帯して。
・載酒:酒を(舟に)載せて。(日本酒の作り方が元になっているのだが、船には老酒や陳酒をもって乗ったというのではなくて、恐らく薫り高い原酒(醪)から上槽でしぼって、できたての薫り高いお酒を飲んだのではないか。贅沢な通の飲み方である。)
・行:行旅。旅。
3.楚腰腸斷掌中輕
女性の細い腰に、魂も奪われる思いをした。スマートで可愛い女性に、身も心も奪われていた。
・楚腰:女性の細い腰のこと。楚の霊王が細い腰を好んだことからいう。
・腸斷:断腸の思いをする。こらえきれない悲しみのこと。「纖細」ともする。
・掌中輕:(漢の成帝の皇后趙飛燕のように)掌中で軽やかに舞えるほど、ほっそりスマートでかわいいこと。
4.十年一覺揚州夢
十年経って、揚州の夢のような生活から、はじめて目覚めたが。
・十年一覺:十年経ってはじめて目覚めた。 ・覺:目覚める。
・揚州夢:揚州の夢。杜牧が揚州の妓楼で、酒色に耽って過ごしていた時の思い出を謂う。
5.占得樓薄倖名
手に入れたのは、妓楼の薄情男、プレイボーイ、遊冶郎の名だけであった。
・占得:占め得た。…ということに占めた。
・贏:〔白話〕勝つ。
・樓:妓楼。「樓」は、本来華美な建物の意だが、妓女の居る所として使われだした、その使用例のはしり。
・薄倖:薄情。
・薄倖名:薄情者の名。
懷(おもひ)を 遣(や)る
江南に落魄して 載酒して 行き、
楚腰 腸(はらわた)斷ちて 掌中に輕し。
十年 一たび覺(さ)む 揚州の夢、
占め得たるは 樓 薄倖(はくかう)の名。
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