杜牧の詩 04 晩唐 352 杜牧詩
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長安回望繍成堆、山頂千門次第開。
一騎紅塵妃子笑、無人知是茘枝來。
1.過華清宮絶句
作者が華清宮を通ったときの作。華清宮は、長安東方の驪山の近くにある。現陝西省臨潼県驪山。玄宗(明皇)と楊貴妃の愛が結ばれたところ。
・過…:…によぎる。…をすぎる(すぐ)。
2.長安回望繍成堆
長安の方をふり返って眺めると美しい山並みの起伏がうずたかくつもり重なっている。
・長安:唐の都。玄宗の都でもある。
・回望:(華清宮から見れば西の方を)ふり返って眺める。
・繍成堆:美しい山並みの起伏がうずたかくつもり重なる。錦繍山河が、幾重にも重なって見えること。或いは、繍嶺のことを指す。
3.山頂千門次第開
山頂の多くの門が次つぎと開かれていった。
・山頂:頂上。
・千門:多くの門。塀が幾重にも奥深く重ねられているさまをいう。
・次第:つぎつぎと。
・開:開かれていく。外部から、驪山の華清宮に入り込んでいくさまをいう。
4.一騎紅塵妃子笑
一騎の馬が(浮き世の)埃を巻き上げながらやってくるのを、妃(きさき)は笑顔(えがお)で(迎え)。
・一騎:馬に乗った人が一つ。この用法の「騎」は●になる。
・紅塵:浮き世の塵。
・妃子笑:きさきが笑む。楊貴妃が(好物の)茘枝を見て微笑む。現在はこの作品が元になって、“妃子笑”という茘枝の品種名にもなっている。玄宗が愛しい楊貴妃のために、季節に先駆けて一番に出来る早生の茘枝を四川より取り寄せたことから起こったという。
5.無人知是茘枝來
誰も知らないだろうが(実は、楊貴妃の好物である)茘枝が届いたのだ。 *誰も 茘枝が来たのだ、ということを知らない。人の 知ること 無からん 是れ 茘枝 來たれりと。「無人知 是〔茘枝來〕。」という句の構成になる。
・無人:……という人はいない。だれも…は、いない。蛇足だが、その反対の「有人」は、「…とした人がいる」「と或る人が」になる。
・知+是:…ということを 知っている。
・無人知+ 是:…ということであると、分かっている人は、だれもいない。誰も知らない。
・茘枝:れいし。現代北方語では〔li4zhi1リーチー〕と言う。ライチともいうのを耳にするが、南方方言か、その訛りか。茘枝は楊貴妃の好物と伝えられている。
・來:くる。きた。
華清宮を 過(す)ぐ 絶句
長安 回望すれば 繍 堆と成り、
山頂の 千門 次第に 開く。
一騎の 紅塵に 妃子 笑み、
人の 是れ 茘枝の來たるを 知る 無し。
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南陵水面漫悠悠、風緊雲輕欲變秋。
正是客心孤迥處、誰家紅袖凭江樓。
南陵道中
南陵への途上にて。
・南陵:現・安徽省南陵。安徽省東南部の長江の南にある町。町中を北流して長江に注ぐ支流が通っている。この作品は、おそらくこの川を長江の方から上って行ったときのものになるだろう。
1.南陵水面漫悠悠
南陵への川面は、水が広々、悠々としている。
・漫悠悠:ゆったりと広がっている。ABB型の表現。
・漫:水が広々と広がっているさま。
2.風緊雲輕欲變秋
風がきつく、雲が軽やかに流れて、(季節の巡りは)秋になろうとしている。
・風緊:風がきつい。
・雲輕:(風が強いために)流れていくさまをいう。
3.正是客心孤迥處
ちょうど旅情がひとりはるかなところへ思いを馳せているとき。
・正是:ちょうど。
・客心:旅をしたときの思い。旅情。
・迥:はるかな。遠い。
4.誰家紅袖凭江樓
どこのうら若い女性だろうか、川沿いの建物(の欄干)に寄り添って(思いに耽って)いるのは。
・紅袖:赤く美しい袖のある着物を着た若い女性。歳若い女性の喩え。
・凭:よりかかる。もたれる。よる。「凭欄」、「凭樓」は、高い建物に登って遠くを眺めやってにもの思いに耽っていることをいう。詞では、祖国の現状に思いを致して慨嘆したり、離れたところにいる恋人に思いを致すときに、屡々使う。
・江樓:川沿いの(旅館などの)建物。現代風にいうと、港町のホテル。
南陵道中
南陵の水面 漫 悠悠として、
風 緊(きつ)く 雲 輕(かろ)やかに 秋に變ぜんと欲す。
正(まさ)に是(こ)れ 客心 孤(ひと)り迥(はる)かなる處、
誰(た)が家の紅袖ぞ 江樓に凭(よ)るは。
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蘆花深澤靜垂綸、月夕煙朝幾十春。
自説孤舟寒水畔、不曾逢着獨醒人。
贈漁父
老漁師に贈る。、世の大勢に順応することを説いた人に贈る。『楚辭』の「漁父」を踏まえている。世の大勢に順応することを説いた人。
1.蘆花深澤靜垂綸
蘆の花が深く茂っている澤で、靜かに釣り糸を垂れて。
・綸:ここでは、釣り糸の意。
2.月夕煙朝幾十春
月の出る夕方まで、もやの立ちこめる朝(の一日中)、幾十年の間。この何十年もの間ずうっと。
・幾十春:幾十年。
3.自説孤舟寒水畔
自ら云うことには、ぽつんとひとつだけあるこの舟で寒ざむしい川辺畔では。
・説:いう。現代語では普通「言う」は“説”を使う。
4.不曾逢着獨醒人。
今までに、屈原のような独り醒めた人には、出逢ったことがない。
・不曾:今まで…したことがない。
・逢着:出逢う。ほうちゃく。「着」は接尾辞。=逢著(ほうちゃく)。現代語でも、意味はやや異なってくるが、よく使う助辞。中国では、“着”を、台湾では“著”を多用する。
・獨醒人:上出の「衆人皆醉我獨醒」と言った屈原のこと。
漁父に贈る
蘆花深き澤に 靜かに綸(いと)を垂れ、
月ある夕 煙れる朝 幾十の春。
自ら説(い)ふ 孤舟 寒水の畔に、
曾て逢着せず 獨り醒むる人にと。
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