杜牧の詩 03 晩唐 352 杜牧詩
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娉娉嫋嫋十三餘、荳寇梢頭二月初。
春風十里揚州路、卷上珠簾總不如。 |
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1.贈別
旅立つとき、詩文をはなむけとして贈ること。別(べつ)に贈る。この作品は、杜牧が揚州を旅立つとき、馴染みで好きだった妓女に贈ったもの。彼女が十三歳のときに別れたのなら、恐らく張好好のことになろう。
2.娉娉:〔へいへい〕女性の容姿が美しいさま。
・嫋嫋:〔でうでう;niao3niao3〕しなやかなさま。か細く弱々しいさま。
・十三餘:十三、四歳。杜牧が愛した妓女の年齢である。
3.荳?:〔とうこう〕ビャクズク。白。多年生常緑草本。初夏に薄い黄色の花を著け、秋に実をつける。生薬の名でもある。なお、豆は、現代語では、“豆年華”といって十三、四歳のローティーンの少女を指すが、その元となったのは、この作品のこの句である。
・荳:豆。
・梢頭:枝の尖。
・二月初:荳がまだ固いつぼみの時期である二月の初め。まだ成熟しきっていない少女のことも指している。
4.十里:揚州の町の規模をいう。
・揚州路:揚州一帯。揚州に杜牧の愛する年若い妓女がいた。
5.卷上:巻き上げる。(揚州の町の全ての女性の部屋の玉スダレを)巻き上げて(美しさを比べてみても)
・珠簾:玉スダレ。美しい。ここでは、女性の部屋の窓の装飾として使われている。
・總:どれも。総じて。
・不如:(貴女に)及ばない。
句の大意
・娉娉嫋嫋十三餘:麗しくたおやかな十三歳過ぎの、
・荳梢頭二月初:荳(と、少女)は枝の尖は(まだ蕾も固い)二月の初旬の様子である。
・春風十里揚州路:春風が、十里ほどあるここ揚州路に(訪れて吹いているが)、
・卷上珠簾總不如:(揚州の町の全ての女性の部屋の)玉スダレを巻き上げて(美しさを比べてみても)総じて、どれも(貴女には)及びもしない。
別(べつ)に贈る
娉娉 嫋嫋たる 十三餘、
荳寇 梢頭 二月の初(はじめ)。
春風 十里 揚州の路、
珠簾を卷き上ぐれど 總じて如(し)かず。
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多情卻似總無情、惟覺髄O笑不成。
蝋燭有心還惜別、替人垂涙到天明。
※多情:多情。情が深い。
※卻:反対に。かえって。
※似:にる。
※總:いつも、大体。総じて。
※無情:情がない。無情。薄情。
※惟:ただ。「唯」ともする。同義。
※覺:感じる。さとる。
※髄O:酒器を前にして。酒席で。=樽。=尊(「尊前集」の尊)。
※笑不成。笑いが成立しない。笑うことができない。前記の日本文は、「笑い」が名詞で、主語のようになっているが、「笑不成」の「笑」は動詞で、「笑不成」で一つの複合動詞のようなものになっている。 ・-不成:やれない。やっても成功しない。動詞の後について、動作、行為が成り立たないことを表す。
※有心:気持ちがある。また、「有芯」の意でもあり、その場合は、「芯がある」になる。
※還:なおもまだ。文言の「尚」に近い。
※惜別:別れを惜しむ。
※替人:人に替わって。
※垂涙:涙を垂らす。ロウソクの蝋が垂れていくことを人が涙を垂らすことと、兼ねている。
※天明:空が明るくなる。夜明け。
句の大意
・多情卻似總無情:多情は却っていつも無情に似て、
・惟覺髄O笑不成:ただ酒席で笑いが成立しないのを感じる。
・蝋燭有心還惜別:ロウソクは芯もあるが、心(気持ち)もあるかのようで、
・替人垂涙到天明:(別れる)人に替わって夜明けまで涙を流した。
別(べつ)に贈る
多情は卻って似る 總じて無情なるに、
惟だ覺る 髄Oに 笑ひを成さず。
蝋燭 心(しん)有りて 還(な)ほ別れを惜しみ、
人に替はり 涙を垂れて 天明に到る。
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繁華事散逐香塵、流水無情草自春。
日暮東風怨啼鳥、落花猶似墜樓人。
※金谷園:西晋の石崇が洛陽の北の金谷に建てた別荘の庭園で、石崇は。ここで愛妾の緑珠と暮らしていた。
※繁華:石崇の生活が豪奢だったことを謂う。
※散:散じてしまった。なくなってしまった
※逐:…にしたがって。…を追って。
※香塵:沈香を削った粉。石崇の家で働く歌妓が軽やかに舞えるかを試すために、床に沈香を削った粉を撒き、その上を歌妓に通らせ、足跡がつかなかった者には褒美として真珠を与え、跡がついた者には罰として食べ物を減らしてダイエットをさせたという。
※流水:ここでは金谷水。過ぎゆく時間をも謂う。
※草自春:草は自然に春の装いをする。天の運行を謂う。「人為」ということのはかなさを暗々裏に云っている。
・春:春の装いをする。ここでは動詞として使われている。「草自生」としたほうがより自然だが、「春」は韻脚故。
※日暮:ゆうぐれ。日が暮れる。
※東風:春風。
※怨:うらめしく思う。
※啼鳥:鳥が啼く。鳥の鳴き声。
※落花:花が散る。
※猶似:なおも似ている。
※墜樓人:身投げをした人。石崇の愛妾の緑珠のこと。
「墮樓人」ともする。杜牧の「題桃花婦人廟」にも「至竟息亡縁底事,可憐金谷墮樓人。」と出てくるが、それも同義。平仄からだけでいうと「墜」が●となり、都合がいい。
句の大意
・繁華事散逐香塵:石崇の豪華な生活も沈香の粉が飛散するのとともに、消滅してしまったが、
・流水無情草自春:川の流れも年月も無情に過ぎ去って、天の運行のみきっちりと変わることなく訪れ、草は自然と春の装いをしている。
・日暮東風怨啼鳥:日暮れの春風に、鳥の鳴き声がうらめしく、
・落花猶似墜樓人:散る花は、なおも身を投げた緑珠のようである。
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