70估客行

李白60宣州謝眺樓餞別校書叔雲 李白61秋登宣城謝眺北楼 李白62久別離 李白63估客行

李白は5つのとらえ方で詩をとらえていかないといけない。その中でかなり多いのが、故事を新しくしてよみがえらせることに大きな役割を示している。
李白は第一に、叙事性を発展させた。李白の楽府を前代のものにくらべると「おはなし」的要素がふえている。第二に、シーン造型が巧みであり、豊富である。六朝の類型的な表現をやぶって、情景を印象ぶかく描き出し、その上に、可能なかぎりの連想をはたらかせている。第三に空想力がたくましい。無限の可能性をもつ世界へのあこがれは、ひろい民衆の層の共感をかちえた。第四に快楽を謳歌した。従来の詩人がおおむね感情の沈潜に向うのに反して、李白は活動的であり、びとびとのよろこびやすい詩をつくった
 第五に、これらの四つの事項は李白天才性を表している。そして思想的背景に道教にあり、すべてに関連しているのだ。。


李白60宣州謝?樓餞別校書叔雲


宣州謝?樓餞別校書叔雲
棄我去者昨日之日不可留、亂我心者今日之日多煩憂。
長風萬里送秋雁。對此可以酣高樓。
蓬?文章建安骨。中間小謝又清發。
?懷逸興壯思飛。欲上青天覽明月。
抽刀斷水水更流。舉杯消愁愁更愁。
人生在世不稱意。明朝散髪弄扁舟。


わたしを棄てて去っていく者、昨日という日に戻すことはできない。わたしの心をかき乱だす今日という日、いやな憂多い日にしてしまった。
ひゅうと長い風が萬里はるばる秋の雁を送ってきた、此の風を前にして高樓で酒盛りをしようではないか。
漢の時代の「蓬?の文章」 建安の時代の気骨の者たち、その時から今のちょうど中間の時代の「小謝」(謝眺)は清々しく溌剌している。

彼らは皆、ずば抜けた高まった気持ちを抱きながら、元気盛んな思いを飛ばした。青空に上って明月を手に取ってみたいと思う。
刀を抜いて水を断ち切ってみても水はそのまま流れてゆく。杯を挙げて愁いを消そうとしても愁いは愁いを重ねていく。
人生というものは、この世間では思うようにならない。 明朝、髪をみだして勤めをやめ、小舟で湖上をさまよいたい


宣州の謝?樓にて校書叔雲に餞別す
我を棄てて去る者は昨日の日にして留まる可からず、我が心を乱れる者は今日の日にして煩憂多し。
長風萬里 秋雁を送る、此に対して以って高樓に酣なるべし。
蓬?の文章 建安の骨、中間の小謝 又 清發。
?に逸興を懷いて 壯思 飛ぶ、青天に上りして 明月を覽と欲す。
刀を抽いて水を斷てば、水更に流れ、杯を挙げて愁を消せば、愁 更に愁。
人生 世に在りて 意に稱(かな)わざれば、明朝 髪を散じて、扁舟を弄せん。


宣州謝?樓餞別校書叔雲
○宣州 安徽省宣城県。長江の南にある。 ○謝?樓 六朝の南斉の詩人、謝?が宣城の長官であった時、建てられた。北楼、謝公楼と呼ばれた。後世、畳嶂楼に改名された。 ○餞別 別れ、見送ること。 ○校書叔雲 校書は役職名。叔雲という人物。


棄我去者昨日之日不可留、亂我心者今日之日多煩憂。
わたしを棄てて去っていく者、昨日という日に戻すことはできない。わたしの心をかき乱だす今日という日、いやな憂多い日にしてしまった。
○煩憂 いろいろある心配事。


長風萬里送秋雁。對此可以酣高樓。
ひゅうと長い風が萬里はるばる秋の雁を送ってきた、此の風を前にして高樓で酒盛りをしようではないか。
○酣 たけなわ。


蓬?文章建安骨。中間小謝又清發。
漢の時代の「蓬?の文章」 建安の時代の気骨の者たち、その時から今のちょうど中間の時代の「小謝」(謝眺)は清々しく溌剌している。
○蓬? 漢の時代の宮中のたくさんの書を収める書庫を東観という。仙人の書籍についてはすべて蓬莱山にあるという伝説になぞらえて東観を蓬莱と呼んだ。このことから『蓬莱の文章』というのは漢時代の文学のことを言う。  ○建安 2世紀末から3世紀にかけて三曹七賢とたくさんの詩人が出た。竹林の七賢といわれたが李白は竹渓の六逸と称して文人と交友した。  ○小謝 謝?のこと。謝霊運を「大謝」という。  ○清發 すっきりして気が利いていること。


?懷逸興壯思飛。欲上青天覽日月。
彼らは皆、ずば抜けた高まった気持ちを抱きながら、元気盛んな思いを飛ばした。青空に上って明月を手に取ってみたいと思う。
○逸興 ずば抜けた気分のたかまり。 ○壯思 元気盛んなおもい。 ○覽 手にとって見る。

抽刀斷水水更流。舉杯消愁愁更愁。
刀を抜いて水を断ち切ってみても水はそのまま流れてゆく。杯を挙げて愁いを消そうとしても愁いは愁いを重ねていく。


人生在世不稱意。明朝散發弄扁舟。
人生というものは、この世間では思うようにならない。 明朝、髪をみだして勤めをやめ、小舟で湖上をさまよいたい。
○散發 役人の象徴の頭にかぶる冠を捨てて、自由なザンバラ髪になること。   ○扁舟 小舟。




李白61秋登宣城謝眺北楼


秋登宣城謝眺北楼
江城如畫裏、山曉望晴空。
兩水夾明鏡、雙橋落彩虹。
雙橋落彩虹、人烟寒橘柚。
人烟寒橘柚、秋色老梧桐。
誰念北樓上、臨風懷謝公。


長江に臨む宣城の街は、さながら絵の中の風景。山に日が傾くころ晴れわたった空を眺める。
街を流れる両の川は 夕日に映えてあかるい鏡のようで双つの橋を彩やかな虹の輝きを落おとす
人いえの煙は立ち上る ミカンの実は寒そうだ。秋の気配に青色の桐は枯れている。
いま、誰たれが北楼の上で佇んでいる、秋風に吹かれているここでありし日の謝公を懐う気持ちはたれが分かってくれるのか

秋登宣城謝?北樓
(秋あき、宣城せんじょうの謝?しゃちょう北楼ほくろうに登のぼる)
?五言律詩。空・虹・桐・公(平声東韻)。
『宋蜀刻本唐人集叢刊 李太白文集』(上海古籍出版社)には、題下に「宣城」との注あり。

江城如畫裏、山曉望晴空
長江に臨む宣城の街は、さながら絵の中の風景。山に日が傾くころ晴れわたった空を眺める。
?曉 … 『瀛奎律髓刊誤』(掃葉山房)では「色」に作り、「曉」との傍注あり。『靜嘉堂文庫蔵宋刊本 李太白文集』(平岡武夫編『李白の作品』、京都大学人文科学研究所)、『宋蜀刻本唐人集叢刊 李太白文集』(上海古籍出版社)、『分類補註李太白詩』(『四部叢刊 初篇集部』所収)、『(分類補註)李太白詩』(『和刻本漢詩集成 唐詩2』所収)、『李翰林集』(江蘇廣陵古籍刻印社)、王g編注『李太白全集』(中国書店)では「晩」に作る。

兩水夾明鏡、雙橋落彩虹。
街を流れる両の川は 夕日に映えてあかるい鏡のようで双つの橋を彩やかな虹の輝きを落おとす

人烟寒橘柚、秋色老梧桐。
人いえの煙は立ち上る ミカンの実は寒そうだ。秋の気配に青色の桐は枯れている。
?寒  『宋蜀刻本唐人集叢刊 李太白文集』(上海古籍出版社)、王g編注『李太白全集』(中国書店)には「一作空」との注あり。

誰念北樓上、臨風懷謝公。
いま、誰たれが北楼の上で佇んでいる、秋風に吹かれているここでありし日の謝公を懐う気持ちはたれが分かってくれるのか
?懷 … 『瀛奎律髓刊誤』(掃葉山房)では「憶」に作る。


江城こうじょう 画裏がりのごとく、山やま暁あけて 晴空(せいくう)を望のぞむ。
両水りょうすい 明鏡めいきょうを夾はさみ、双橋そうきょう 彩虹さいこうを落おとす
人烟じんえん 橘柚きつゆう寒さむく、秋色しゅうしょく 梧桐ごとう老おゆ。
誰たれか念おもわん北楼ほくろうの上うえ 、
風かぜに臨のぞんで謝公しゃこうを懐おもわんとは