春思,秋思 李白詩17-21
李白 17少年行
「少年行」というのは楽府(がふ)の雑曲の題で、当時はやっていた。盛唐の詩人の多くが同題の詩を作っている。王維21歳、李白31歳、二人は長安で杜甫51歳は成都であった。
李白は太白山に登り、夢地希望を胸に都生活をする。そこで、遊侠の若者を楽府詩を詠う。
李白31歳の作品
少年行
五陵年少金市東、銀鞍白馬度春風。
落花踏尽遊何処、笑入胡姫酒肆中。
五陵の若者は 金市の東、繁華街、銀の鞍の白馬にまたがって春風の中を颯爽と行く。
一面に舞い散る花を踏み散らし どこへ遊びに出かけるのか
にぎやかに笑いながら、碧眼の胡姫の酒場へ行こうというのか
年少は少年と同じ、日本でいう少年は童。金位置の東寄りに居酒屋があってイラン人の女性がお相手をしていた。長安は、このころ世界一の大都市であった、シルクロードの起点でもあるが、唐王朝はペルシャの一部まで領土を拡大していた。五陵の若者というのは、五つの陵墓を中心に陵園都市が形成され、繁華を誇った。このころは少し荒廃していたようであるが、李白は漢代のイメージで歌っている。それと、貴族の住居地区という意味も兼ねている。
金市というのは下の関係図に示す、西の金光門をさし、次の句の銀の鞍との対比を意図している。
五陵の関係図
唐の時代「胡姫」はペルシャ(イラン系)の紅毛金髪、碧眼、白皙の女性を示していた。
○韻 東、風、中。
少年行
五陵年少金市東、銀鞍白馬度春風。
落花踏尽遊何処、笑入胡姫酒肆中。
五陵の年少(ねんしょう)金市(きんし)の東
銀鞍(ぎんあん)白馬春風(しゅんぷう)を度(わた)る
落花(らっか)踏み尽くして 何処(いずこ)にか遊ぶ
笑って入る胡姫(こき)酒肆(しゅし)の中
唐は西に伸びきった領土を有していた。建国当初は、富を得ていたが次第に負担が勝るようになる。
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相逢行,玉階怨,相逢行,春思,秋思
李白18 相逢行
このころ、李白の詩を24歳のころ認めてくれていた官僚で詩人の蘇廷は場配っていた。王維は10年前に科挙に合格し、洛陽の地方官をしている。結婚し、宗之問の別荘であった、罔川荘を、購入している。張説(64)没し、張九齢が後継者となっていた。詩を献上したり、何らかの士官活動はみられない。この李白の長安滞在の前後して、盛唐の多くの詩人は長安に集まり、科挙の試験に及第している。杜甫は、呉越(江蘇・浙江)に遊ぶ。
長安の多数の坊(ぼう)には、もっぱら貴顕の住む坊が出来あがっていて、住んでいることが本人にとって誇りであり、そこの住人と知人であることさえ自慢になる。街で出会った貴族同士の自慢話を描いています。
相逢行
相逢紅塵内、高揖黄金鞭。
万戸垂楊裏、君家阿那辺。
にぎやかな街で出逢い
黄金の鞭を上げて挨拶する
垂楊の陰に 家のひしめく大都会
お宅は確か あの辺でしたね
長安で、「土埃」は人馬の賑やかさの示し、「紅塵」という場合、歓楽街を示す。その街で乗馬の二人が、黄金の飾りのついた鞭を上げて挨拶をかわし、「君が家は阿那の辺」と街の一角に視線を投げる。
相逢紅塵内、高揖黄金鞭。
万戸垂楊裏、君家阿那辺。
相逢行(そうほうこう)
相逢(あいあ)う 紅塵(こうじん)の内
高揖(こうゆう)す 黄金(おうごん)の鞭
万戸垂楊(すいよう)の裏(うち)
君が家は阿那(あな)の辺(へん)
李白19 玉階怨
「玉階怨」も有名な楽府題で、宮女の夜の閨怨を詠うもの。
玉階怨
玉階生白露、夜久侵羅襪。
却下水精簾、玲瓏望秋月。
白玉の階(きざはし)に白い霧が珠を結び、
夜は更けて、たたずむ妃(ひめ)の羅(ら)の靴下に冷たさが滲みとおる
水晶の簾(すだれ)をおろした
玲瓏とさらに透明に輝いて、秋の月影をのぞんでいる
「玉階」は大理石の階(框)のことで、中国宮殿で院子(前庭)から廊に上がる階段のこと。通常左右にふたつあり、王侯の来臨を待って永いあいだ大理石の階段に佇んでいる。「玲瓏」は、透明に光り輝くさま。白露が宮女の薄絹の靴下の中まで滲みとおってくるという濃厚な哀憐の詩情だが、すべて楽府題にもとずく空想の作品。
玉階生白露、夜久侵羅襪。
却下水精簾、玲瓏望秋月。
玉階(ぎょくかい)に白露(はくろ)生じ
夜久しくして羅襪(らべつ)を侵(おか)す
水精(すいしょう)の簾(すだれ)を却下(きゃっか)するも
玲瓏(れいろう)として秋月(しゅうげつ)を望む
玉階怨(ぎょくかいえん)
李白20 春思
春を迎えての思い。異郷に旅立っている男性を思う歌。留守を守る女性の立場で詠われた作品である。
春思 李白
燕草如碧絲,秦桑低克}。
當君懷歸日,是妾斷腸時。
春風不相識,何事入羅幃。
(男性が出かけている)北国である燕国の草は、緑色の糸のように(生えて春を迎えたことでしょう。
(ここ)長安地方のクワは、(もう、しっかりと繁り)緑色の枝を(重そうに)垂らしている。
あなた(男性)が戻ってこられようと思う日は
(それは)わたしが、腸(はらわた)の断ち切られるばかりのつらい思いをする時である。
春風は、顔見知りの愛(いと)しいあの男(おかた)ではない(のに)。
どうしたことか、(わたしの)寝床の薄絹のとばり内ら側に入ってくるではないか。
○韻 絲、枝、時、幃。
燕草は 碧絲の如く,
秦桑は 克}を 低たる。
君の 歸るを懷おもう日に 當るは,
是これ 妾しょうが 斷腸の時。
春風 相ひ識(し)らず,
何事ぞ 羅幃らいに 入る。
燕草如碧絲:
(男性が出かけている)北国である燕国の草は、緑色の糸のように(生えて春を迎えたことでしょう。 ・燕草:北国である燕国の草。 ・燕:〔えん〕北国の意で使われている。現・河北省北部。 ・如:…のようである。 ・碧絲:緑色の糸。 ・碧:みどり。あお。後出「香vとの異同は、どちらも、みどり。「碧」〔へき〕は、碧玉のような青緑色。青い石の色。「香v〔りょく〕は、みどり色の絹。
秦桑低克}:
(ここ)長安地方の桑は、(もう、しっかりと繁り)緑色の枝を(重そうに)垂らしている。
季節も変わり、月日も流れた…、という時間経過を表している。 ・秦桑:(ここ)長安地方のクワ。 ・秦:〔しん〕、女性のいる場所の長安を指している。 ・低:低くたれる。 ・克}:緑色の枝。
當君懷歸日:
あなた(男性)が戻ってこられようと思う日は。 ・當:…あたる。 ・君:(いとしい)あなた。男性側のこと。 ・懷歸日:戻ってこようと思う日。(彼女に告げていた)帰郷の予定日。
是妾斷腸時:
(それは)わたしが、腸(はらわた)の断ち切られるばかりのつらい思いをする時である。
*この聯は、いつになっても帰ってこない男性を、ひたすら待つ身のやるせなさを謂う。 ・是:(それは)…である。 ・妾:〔しょう〕わたし。女性の謙遜を表す自称。 ・斷腸:腸(はらわた)が断ち切られるほどのつらさや悲しさ。
春風不相識:
春風は、顔見知りの愛(いと)しいあの男(おかた)ではない(のに)。 ・不相識:顔見知りの人ではない。知り合いの人ではない。
何事入羅幃:
どうしたことか、(わたしの)寝床の薄絹のとばり内ら側に入ってくるではないか。
*わたし(=女性)の切なく淋しい胸の内を理解して、春風は慰めてくれているのであろうか。 ・何事:どうしたことか。 ・羅幃〔らゐ〕薄絹のとばり。
李白21 秋思
秋を迎えての思い。異郷に旅立っている男性を思う歌。留守を守る女性の立場で詠われた作品である。
秋思
燕支黄葉落、妾望白登台。
海上碧雲断、単于秋色來。
胡兵沙塞合、漢使玉関囘。
征客無帰日、空悲尅雀煤B
秋の思い。
燕支の山で黄葉もみじが落ちるころ、妾わたしは白登台を望みます。
湖上のほとり、真っ青な空の雲も、遠く流れて消え、単于の住むところ、北の国には、秋の気配が満ちてきた。
胡の兵たちは、砂漠の塞に集結したという、漢の国の使者は、玉門関から帰ってきた。
出征されたお方は帰ってくることないのでしょうか、残された者は、空しく悲しい思い、あたかも香草が霜枯れするように。
玉門関以西に出征したものの帰還はまれだった。本来、3年間が府兵制度の兵役であるが、なし崩しで守られなかったのだ。
多くの詩人に詠われている邊塞詩、あるいは、この玉門関そのもの名で、あるいは、「涼州詞」と題し詠われている。王翰、王昌齢、王之渙、が詠っている。李白よりすこし先輩である。
六朝時代より伝統的な戦場に行かないで戦場のことを詩に詠う形式も邊塞詩の特徴である。たいていは、これらには音楽を伴って、酒場などで歌われた。李白の詩は、酒代であったのだろうか。
○韻 台、來、囘、摧。
燕支に 黄葉もみじ落ち、妾は望む 白登台。
海上 碧雲 断え、単于 秋色 来る。
胡兵は 沙塞に合わせ、漢使は 玉関より囘る。
征客は 帰える日無く、空しく悲しむ 尅垂フ摧くだかれるを。