子夜呉歌四首 李白22-25
李白22
子夜呉歌其一 春 李白23
子夜呉歌其二 夏
李白24
子夜呉歌其三 秋 李白25
子夜呉歌其四 冬
李白 22
子夜呉歌 其一 春
秦地羅敷女、採桑緑水辺。
素手青条上、紅粧白日鮮。
蚕飢妾欲去、五馬莫留連。
秦の地の羅敷女ような美女、桑を摘む清らかな川のほとり。
白い手は緑の枝に伸び、ほほ紅が真昼の光に映えて鮮やかだ
蚕に餌をやるので 私は失礼いたします
太守さまはお急ぎお帰り下さいませ
五馬とは五頭立ての馬車に乗ることが許されている州刺史(しゅうしし)または郡太守(ぐんたいしゅ)のこと。漢代の郡は行政機関で県の上に位置し、唐代には州と呼ぶようになる。県は市や町にあたる。なお、唐の長安の都は広大でしたので、城内の南の部分には農地もあり、農家や高官の別荘などが点在していた。
○韻 辺、鮮、連。
秦地羅敷女、採桑緑水辺。
素手青条上、紅粧白日鮮。
蚕飢妾欲去、五馬莫留連。
子夜呉歌(しやごか) 其の一 春
秦地(しんち)の羅敷女(らふじょ)
桑を採(と)る 緑水(りょくすい)の辺(ほとり)
素手(そしゅ) 青条(せいじょう)の上
紅粧(こうしょう) 白日(はくじつ)に鮮やかなり
蚕(かいこ)は飢えて妾(しょう)は去らんと欲す
五馬(ごば) 留連(りゅうれん)する莫(なか)れ
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夏は一転して越の美女西施の再登場。
李白23
子夜呉歌其二 夏
鏡湖三百里、函莟発荷花。
五月西施採、人看隘若耶。
囘舟不待月、帰去越王家。
鏡のように澄んだ鏡湖は周囲三百里
蓮のつぼみが蓮の花をひらく
五月になって西施は花を摘み
見物人が集まって、若耶渓も狭くなる
舟の向きを変えて月の出を待たず
西施は越王の御殿へ帰ってゆく
「西施」については『西施ものがたり」(李白12を参照)、中国の伝説的な美女。秦の美女、越の美女と、美女の話がつづきいた。
鏡湖三百里、函莟発荷花。
五月西施採、人看隘若耶。
囘舟不待月、帰去越王家
子夜呉歌(しやごか) 其の二 夏
鏡湖(きょうこ) 三百里
函莟(かんたん) 荷花(かか)を発(ひら)く
五月 西施(せいし)が採(と)るや
舟を囘(めぐ)らして月を待たず
帰り去る 越王(えつおう)の家
李白24 子夜呉歌其三 秋
この詩は、李白詩で、日本人に膾炙している秀作作品のひとつ。
李白は兵士の妻の閨怨を詠っているが、だからといってこの詩に反戦思想は感じられません。
子夜呉歌其三 秋
長安一片月、万戸擣衣声。
秋風吹不尽、総是玉関情。
何日平胡虜、良人罷遠征。
長安の空に 一片の月
聞こえてくるのは 万戸砧(きぬた)を擣(う)つの声
秋風(あきかぜ)は 吹いてやまず
情(おもい)はすべて 玉門関のかなたへ飛ぶ
良人(おっと)よ いつになったら胡虜を平らげ
遠征をやめてもどってくるのか
「擣(う)つ砧を臼にいれ、布を杵(棒杵)でつく。砧でつくのは洗濯ではなく、冬用の厚いごわごわした布を柔軟にするため。
長安一片月、万戸擣衣声。
秋風吹不尽、総是玉関情。
何日平胡虜、良人罷遠征。
子夜呉歌(しやごか) 其の三 秋
長安 一片の月
万戸 衣(い)を擣(う)つの声
秋風(しゅうふう) 吹いて尽きず
総て是(こ)れ玉関(ぎょくかん)の情
何(いず)れの日か胡虜(こりょ)を平らげ
良人(りょうじん) 遠征を罷(や)めん
李白24 子夜呉歌其三 秋 李白25 子夜呉歌其四 冬
李白25 子夜呉歌其四 冬
「冬」は「秋」のつづき。「秋」が幻想的に比べ、「冬」は極めて現実的。
子夜呉歌其四 冬
明朝駅使発、一夜絮征袍。
素手抽針冷、那堪把剪刀。
裁縫寄遠道、幾日到臨兆。
明日の朝には駅亭の使者が発つ
今夜のうちに綿入りの軍服に仕立てよう
白い手で針を運べば指はこごえ
はさみを使うのはもっとつらい
縫いあげて 遠いかなたに送ります
幾日たてば 臨兆に着くのだろうか
明日の朝に駅亭の使者が発つ、それに託するため、今夜中に冬用の軍服を仕立て上げなければならないと、妻はこごえる手をこすりながら針を使う。なお、唐初の徴兵は、服などの壮備は本人負担であった。「臨兆」は甘粛省にある。広く西方の駐屯地である。
明朝駅使発、一夜絮征袍。
素手抽針冷、那堪把剪刀。
裁縫寄遠道、幾日到臨兆。
子夜呉歌(しやごか)其の四 冬
明朝(みょうちょう) 駅使(えきし)発す
一夜にして征袍(せいほう)に絮(じょ)せん
素手(そしゅ) 針を抽(ひ)けば冷たく
那(なん)ぞ 剪刀(せんとう)を把(と)るに堪えん
裁縫して遠道(えんどう)に寄す
幾(いずれ)の日か 臨兆(りんとう)に到らん
李白