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 杜甫
  漂泊の詩


1060 宿白沙驛   


1127 宿白沙駅 (江陵を発つ)
大暦4年769年58歳

 杜甫の一家は岳陽で年を越し、翌大暦四年(769)の正月、洞庭湖を南へ下って潭州(湖南省長沙市)に向かいます。杜甫の故郷北の方角です。南の瀟湘へ向かった理由については諸説あります。乱後であっても北は不安定な状態であること、詩友いないなどで、帰っても生活するのに難しいというのが理由だと思います。
この時代、洞庭湖は現在の六倍の広さがあり、南に現在よりも50kmほど拡がっていました。洞庭湖の東南隅に青草湖があり、白沙駅という宿駅があります。杜甫は日暮れになって白沙駅の渡津に舟をつなぎました。

252 宿白沙駅(水宿仍余照)
宿白沙駅
水宿仍余照、人煙復此亭。
駅辺沙旧白、湖外草新青。
万象皆春気、孤槎自客星。
随波無限月、的的近南溟。

白沙駅に宿す 
消え残る夕陽  水辺に舟を泊め
今宵も水煙が  宿場の家から立ち昇る
駅亭の辺りは  白い砂浜がひろがり
岸辺には  青い若草が芽吹いている
すべては  春の気配を帯びはじめたが
一艘の筏に乗る私は  さすらいの星なのだ
波に揺られて   どこまでもつづく月の影
煌々と輝く中を  南の果てへ近づいてゆく



水宿(すいしゅく)  仍(な)お余照(よしょう)
人煙(じんえん)  復(ま)た此の亭
駅辺(えきへん)  沙  旧(もと)白く
湖外(こがい)    草  新たに青し
万象(ばんしょう)  皆  春気(しゅんき)
孤槎(こさ) 自(おのずから)ら客星(かくせい)
波に随う  無限の月
的的(てきてき)として南溟(なんめい)に近づく



 この詩も前半四句は叙景、後半四句は杜甫の心境を詠うお得意のスタイルです。頷聯(三、四句)の各句を後ろから一字飛びに読むと、「白沙駅」「青草湖」の名前が詠み込まれています。杜甫は本来、詩中で言葉遊びを重点においていません。しかし一般的に漢詩には、沢山の約束事、決まり事があります。そうしたテクニックは一般の人にはできないことで、詩の内容より技法を喜ぶ傾向がありました。杜甫もこうした隠し味を施し、地もとの人を喜ばせたのでしょう。詩で、売文で生計を立てているのですから、杜甫の矜持の範囲で精一杯の詩を書く必要があったのです。
 しかし、後半四句の心境を詠う部分は前向きでおおらかに謳いあげています。