2 遊龍門奉先寺
遊龍門奉先寺
已従招提遊、更宿招提境。
陰壑生虚籟、月林散清影。
天闕象緯逼、雲臥衣裳冷。
欲覚聞晨鐘、令人発深省。
わたしは今日このお寺さんに遊んだばかりではなく、さらにこのお寺さんの境内に宿ることにした。山の北側の谷には風がうつろな響きを立てて湧き起こり、月下の林には清らかな光が散乱している。
天の宮門かと怪しまれるこの山の上には星のよこ糸が間近に垂れ下がり、雲のなかに身を横たえていると着物も冷ややかに感ぜられる。目覚めようとするころに朝の鐘の音が聞こえてきたが、それは聞く者に深い悟りの念を起こさせずにおかない。
已従招提遊:今日はお寺院を散策し
・招提:(しょうだい)寺院を息味する梵語、招闘提曹を略して招提といったもの。
更宿招提境:そのうえこのお寺の境内に泊まる
陰壑生虚籟:北の谷間で 風がうつろな音を立て
・陰壑:(いんがく) 谷間。いわや。古来から籠もった岩陰や岩屋から雲、靄が発生すものとされている。 ・虚籟:(きょらい) うつろな風の音、ひびきのみして姿が見えぬゆえ虚という。うつろな穴に湧き起こる風の音とも解される。籟はびびき。
月林散清影:月下の林は 清らかな光を放つ
天闕象緯逼:両岸の山に 星が間近に垂れ下がり
天闕: 天の宮門。伊河をはさむ両岸の山が門を形成しているようだ。奉先寺は名高い石仏群とともにその川の北岸にある。・象緯: 星のよこ糸。天空に横に並ぶ星座をいう。
雲臥衣裳冷:岩屋から出てきた雲の中で臥していると 着物も冷たく感ずる
欲覚聞晨鐘:目ざめようとして 朝の鐘の音を聞けば
目が覚める、・晨鐘:(しんしょう)夜明けの鐘。(晨省:朝、両親のご機嫌を伺う。)
令人発深省:私の心に深い悟りの念を起こさせずにおかない
鐘の音で悟りのきもちになる
令人:(れいじん)立派な人。美人。
○韻字 境・影・冷・省。