■ 杜甫 社会派の詩
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14 兵車行
■ 天宝10載,751年,40歳,七言歌行,24兵車行
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車リンリン??,馬蕭蕭で始まる特徴的な詩です。[世は太平]とうかれた感がある中、中国の西、ウイグル自治区のあたりで唐軍が大敗し、その後、唐軍が勝ちますが、油断ができません。その上チベットが青海地方に進出してきます。このため唐軍の大半が西方に向かいます。杜甫は長安の町で毎日その光景に遭遇します。崩れていても戦になれは府兵制度は農民の上にのしかかります。杜甫は、均田制・租庸調と府兵制度、律令体制、朝廷の軍事政策に対し強い疑念を抱いていました。そうした中でこの作品は作られました。自分の生き方に疑問を持ち始めたころでした。リアリズムな詩の処女作になります。当時の中国西方には何もなく砂漠を超える部隊の場合荷物満載の馬車等も相当数で、朝から晩まで毎日続き砂塵はすごかったとおもいます。
兵車行
車輪輪,馬蕭蕭,行人弓箭各在腰。
耶孃妻子走相送,塵埃不見咸陽橋。
牽衣頓足闌道哭,哭聲直上干雲霄。』-(1)
道旁過者問行人,行人但云點行頻。
或從十五北防河,便至四十西營田。
去時里正與裹頭,歸來頭白還戍邊。』-(2)
邊庭流血成海水,武皇開邊意未已。
君不聞漢家山東二百州,千邨萬落生荊杞。
縱有健婦把鋤犁,禾生隴畝無東西。
況復秦兵耐苦戰,被驅不異犬與鷄。』-(3)
長者雖有問,役夫敢申恨。
且如今年冬,未休關西卒。
縣官急索租,租税從何出。
信知生男惡,反是生女好。
生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。』-(4)
君不見青海頭,古來白骨無人收。
新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。』-(5)
(1)
車はガラガラ、馬はヒヒーン、出征兵士は、弓矢を各々腰に着けている。
父と母、妻と子は、走って見送って、砂煙で、咸陽橋が見えなくなる。
上着を引っ張ったり、地団駄を踏んだり、足にしがみついたり、道をさえぎって、声をあげて泣いているし、啼き声は、真っ直ぐにたち上って、雲のある大空にまでとどいている
(2)
道端の通りすがりの者が問い尋ねると、出征兵士がただ、云うことには、徴兵が頻(しき)りなされている。
或る者は十五歳から、北の方の黄河(上流)の防衛戦の守備に就き、そのままで、四十歳になって、西の方の屯田兵を命ぜられた。
出征する時、村長は出征の装束の頭巾をかぶせてくれた。帰ってくたら、(もう)頭髪が白くなっているのに、なおまた辺疆を防備する(ことを命ぜられた)。
(3)
国境附近の戦闘による流血は、海のようになった。漢の武帝(唐・玄宗を暗示)の辺疆を開こうという意図は、まだ終わらない。
あなたは、聞いたことがあるでしょう、我が国家の山東の二百州のことを。あらゆる村々では(荒れ果てて)いばらや枸杞(くこ)の雑木が生い茂ったことを。
喩え健気な妻が、鋤(すき)などの農機具を(手に)執り持って(健闘した)としても、稲や穀類が田圃に生え、荒れて茫茫に生えた中に畝も隠れ、西も東もなくなった無秩序な状態になっている。
まして、秦の兵士は、いくら(勇猛で)苦戦に耐えていく(能力がある)とはいっても、追い立てられて、(使役されるのは)犬や鶏といった小動物や家畜と違わない。
(4)
あなたさまがそのようにお訊ねになりますが、それがしは、積極的にうらみごとを申せましょうか。
今年の冬のごときは、関西(秦の故地である陝西)への出兵が、終わることがない(のに)。
県の徴税吏は、租税を急にもとめていました。
租税(の穀物)なんて、一体どこから出てきましょうか。
男の子を産むことは好くないことだと本当に分かった。
(これと)反対に、女の子を産むことは好いことだ。
女の子を産んだら、まだ近所へお嫁に行かせることができるが、男を生めば、(兵卒となって屍を)雑草の中に埋もれ伏してゆくことになる。
(5)
あなたは、見たことがないのか、青海湖の畔(では)、昔から今まで(戦死した兵士の)白骨を誰も収めていない。
(今回の戦役で亡くなった)新たな霊は、わずらいもだえて、(昔の戦役で亡くなった)霊は、声をあげて啼いており、空が曇り、雨で湿る折には、死者の魂が悲しげにしくしくと泣いている声を。
兵車行
(1)
車 ??(りんりん),馬 蕭蕭(せうせう),
行人の 弓箭(きゅうせん)各ゝ(をのをの)腰に在り。
耶孃(やぢゃう) 妻子 走りて 相(あ)ひ送り,
塵埃(ぢんあい)に 見えず 咸陽橋(かんやうけう)。
衣を牽(ひ)き足を頓し 道を闌(さへぎ)りて 哭し,
哭聲 直上して 雲霄(うんせう)を干(をか)す。
道旁の 過ぐる者 行人に 問へば,
行人 但(た)だ云(い)ふ 點行頻(しき)りなりと。
(2)
或は 十五 從(よ)り 北のかた 河に防ぎ,
便(すなは)ち 四十に至るも 西のかた 田を營む。
去る時 里正 與(ため)に 頭を裹(つつ)み,
歸り來(きた)れば 頭 白くして 還(ま)た 邊を戍(まも)る。
(3)
邊庭の流血 海水を 成せど,
武皇 邊を開く 意は 未だ已(や)まず。
君 聞かずや 漢家 山東の二百州,
千村 萬落 荊杞(けいき)を 生ずるを。
縱(たと)ひ健婦の鋤犁(じょり)を把(と)る有りとも,
禾(いね)は 隴畝(ろうほ)に生じて東西(とうざい)無し。
況(いは)んや復(ま)た 秦兵は 苦戰に耐ふとて,
驅らるること 犬と鷄とに 異らず。
(4)
長者 問ふ有りと雖(いへど)も,
役夫(えきふ) 敢(あへ)て恨みを申べんや。
且つ 今年の冬の 如きは,
未だ 關西(くゎんせい)の卒を 休(や)めざるに。
縣官 急に租を索(もと)め,
租税 何(いづ)くより 出(い)ださん。
信(まこと)に 知る 男を生むは惡(あ)しく,
反って是れ 女を生むは好(よ)きを。
女を生まば猶(な)ほ 比鄰(ひりん)に嫁するを得るも,
男を生まば 埋沒して 百草に隨(したが)ふ。
(5)
君 見ずや 青海の頭(ほとり),
古來 白骨 人の收むる 無く。
新鬼 煩冤(はんゑん)し 舊鬼 哭し,
天陰(くも)り雨濕(しめ)るとき聲啾啾(しうしう)たるを。