韓愈詩
醉留東野(昔年因讀李白杜甫詩) 山石(山石犖?行徑微) 忽忽(忽忽乎余未知生之爲樂也
左遷至藍關示姪孫湘 送桂州嚴大夫同用南字
韓愈:中唐の文人、政治家。768年(大暦三年)〜824年(長慶四年)。洛陽の西北西100キロメートルの河陽(現・河南省孟県)の人。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44−45ページ「唐 都畿道 河南道」。字は退之。諡は文公。四六駢儷文を批判し、古文復興を倡えた。仏舎利が宮中に迎えられることに対して韓愈は、『論仏骨表』を帝(憲宗)に奉ったが、却って帝の逆鱗に触れ、潮州刺史に左遷された。その時の詩 。唐宋八大家の一人。
佳林はカルスト台地、自然は独特の景観を作り出した。韓愈は52歳の時、憲宗の逆鱗に触れ潮州にされた。韓愈の「送桂州嚴大夫」は55歳の時の作品。彼は広東州にも左遷されていた。その時子供の時訪れたことのある桂林に再び訪れたりしている。桂林についての知識があった。
厳太夫の左遷にさいして詠ったこの句「江は青羅の帶をなし,山は碧玉の簪のごとし」は後世の詩人たちに手本となる美しい句となった。瘴癘(しょうれい:毒ガス:マラリアはガスが原因と考えられていたのだ)の地に左遷されると心配していた厳太夫にとってどんなに勇気づけられたことか、安心するばかりでなく、桂林を訪れたに違いない。
(22)
送桂州嚴大夫同用南字(嚴謨也)
蒼蒼森八桂,茲地在湘南。
江作青羅帶,山如碧玉簪.
戸多輸翠羽,家自種黄甘。
遠勝登仙去,飛鸞不假驂。
青々と茂っている木々は伝説の月の宮殿の森のように茂っている。そういうように茂ったこの詩は湘江の南にある。
川は青い薄絹の帯のようになっており、山は碧玉の簪のように美しい。
家々の戸口からはカワセミの衣類箱がとりだされ、家々にミカンの木が植えられている。
遠くはるかな桂林の仙人の世界に遊べば、鳳鸞が乗せてくれるのに休みさえない。
桂州の嚴大夫に送る 韓愈
蒼蒼と八桂に森す,茲れる地は湘の南に在る。
江は青羅の帶をなし,山は碧玉の簪のごとし.
戸多し翠羽を輸し,家に自り黄甘を種える。
遠く勝に仙を去り登り,飛鸞す驂るに假をあたえず。
(23)
左遷至藍關示姪孫湘
一封朝奏九重天,夕貶潮州路八千。
欲為聖朝除弊事,肯將衰朽惜殘年。
雲秦嶺家何在,雪擁藍關馬不前。
知汝遠來應有意,好收吾骨瘴江邊。
左遷せられて 藍關に至りて 姪孫・湘に示す
一通の上奏文を朝に皇帝に奏上した。上奏したその日の夕べには、八千里離れた潮州へ飛ばされた。
陛下のためにまがごとを取り除こうとした。そのために『論佛骨表』という上表文を表した。
えて、老いさらばえた身で余命を惜しもうか、惜しくない。
雲は、秦嶺に横わって、人を寄せ付けない厳しさを見せ、人家などもありそうにない。
雪は藍田関を包み込んで、馬は進もうとしない。あなたが遠いところをやって来たのは、きっと訳があるのだろうと思われる。わたしの遺骨は(南方の)瘴気の漂う川べりとなろうが、ちゃんと拾ってくれよ。
一封 朝に奏す 九重の天,
夕に貶せらる 潮州 路 八千。
聖明の爲に 弊事を除かんと欲し,
肯(あへ)て 衰朽を 將(もっ)て 殘年を惜まんや。
雲は 秦嶺に横たはりて 家 何(いづ)くにか 在る,
雪は 藍關を擁して 馬は 前(すす)まず。
知る 汝(なんぢ)の 遠來するは 應(まさ)に 意 有るべしと,
好し 吾が骨を收めよ 瘴江(しゃうかう)の邊に。
左遷至藍關示姪孫湘
左遷せられて藍關に至りて姪孫の湘に示す。元和十四年正月、韓愈は、その上奏文に因り左遷される。 ・左遷:官職を落とされて地方へ行かされる。 ・藍關:藍田関。陝西省の藍田県の南にある。長安から見て、秦嶺の手前(嶺北)にある。 ・示:詩詞を親しい者や目下に、気軽に見せるときなどに使う。陸游『示兒』『示虜』、席珮蘭『夏夜示外』(外:おっと)等。贈…、呈…、の文型の一で、示…。 ・姪孫:自分の兄弟の孫。自分の一族中の孫の世代に当たる者。ここでは、韓愈の姪にあたる韓老成の息子である湘。 ・湘:人名。自分の兄弟の孫の名。韓湘。
一封朝奏九重天
一通の上奏文を朝に皇帝に奏上した。 ・一封:一通の上奏文。「論佛骨表」を奉り、憲宗が仏舎利を宮中に迎えようとしたことに反対した上奏文。 ・封:上奏文。黒い袋に入れて封をしたことからいう。 ・朝:あさに。朝に奏上したら、夕べにはもう…、という意味。「朝廷に奏上」ではない。 ・奏:皇帝に具申する。 ・九重天:天の一番上。ここでは、王宮をいう。白居易『長恨歌』に「九重城闕煙塵生」がある。
夕貶潮州路八千
上奏したその日の夕べには、八千里離れた潮州へ飛ばされた。 ・夕:夕べには。その日の中に、ということ。 ・貶:落とす。下げる。潮州刺史に左遷されたことをいう。 ・潮州:広東省の東北の沿岸部に位置する。都の長安からは、極めて離れている。潮陽ともする。 ・路八千:長安から潮州への道のり。極めて離れていることをいう。 ・欲爲:…のために…したいと思って。本爲ともする。 ・聖明:聖明な君主。皇帝をいう。陛下。 ・弊事:好くない事がら。弊害を生む事がら。仏舎利を宮中に迎えることを指す。弊政ともす
る。
欲爲聖明除弊事
陛下のためにまがごとを取り除こうとした。そのために『論佛骨表』という上表文を表した。 ・聖明:天子の明徳の意で天子自身を指す。皇帝、天子という言葉を直截言うことを憚った。 ・弊事:悪い事。好ましくない事。仏のお骨を宮廷に迎えることを指す。
肯將衰朽惜殘年
あえて、老いさらばえた身で余命を惜しもうか、惜しくない。 ・肯:あえて…か。反語的に使う。 ・將:…をもって。古語の「以」に似た働きをする。 ・衰朽:老衰する。衰え朽ちる。裹朽ともする。 ・殘年:余命。残生。
雲横秦嶺家何在
雲は、秦嶺に横わって、人を寄せ付けない厳しさを見せ、人家などもありそうにない。 ・雲横:雲は、…に横わり。雲で半ば覆われているさまをいう。 ・秦嶺:長安の南側にあって、東西に横たわる大山脈。日本アルプスほどの規模がある。終南山もここにある。 ・家何在:人家がどこにあろうか。人気が無く、秦嶺が人を寄せ付けない厳しさを持っていることをいう。ここでは、長安からやって来た韓愈が、自宅のある長安を振り返って「家何在」と言っているのではない。韓愈は長安より南下して秦嶺の手前の藍関でこの詩を作った。まだ秦嶺には、登っていない。秦嶺に登って、後方(北の方)の長安を振り返って眺め、自宅を懐かしむというのは、普通の人間としてはよくわかる感情だが、ここの韓愈の場合は違う。少なくとも、「欲爲聖明除弊事,肯將衰朽惜殘年。」という慷慨の言のすぐ後に、自宅を懐かしんでいては、この第二聯が死んでしまう。ただし、前出、白居易の『初貶官過望秦嶺』「草草辭家憂後事,遲遲去國問前途。望秦嶺上迴頭立,無限秋風吹白鬚。」に基づいているとすれば、勿論、自宅のある長安を振り返って、我が家はどの方にあろうか、ということになる。何如。
雪擁藍關馬不前
雪は藍田関を包み込んで、馬は進もうとしない。 ・雪擁:雪が…を包み込んで。 ・藍關:藍田関。陝西省の藍田県の南にある。長安から見て、秦嶺の手前(北側)にある。 ・馬不前:馬は(降り積もった雪のために)進まない。
知汝遠來應有意
あなたが遠いところをやって来た、その気持ちはよく分かった。あなたが遠いところをやって来たのは、きっと訳があるのだろうと思われる。 ・汝:ここでは、自分の兄弟の孫である韓湘を指す。 ・知:…と思う。この聯は、近体詩にあまりない節奏を近体詩の格律に納めている。〔知+汝・遠來+應有意〕。 ・汝:あなた。兄弟の孫の韓湘を指す。 ・遠來:遠くから来たこと。 ・應:きっと…だろう。 ・有意:意図がある。訳がある。気持ちがある。 ・應有意:これも何かの因縁だろう。
好收吾骨瘴江邊
わたしの遺骨は(南方の)瘴気の漂う川べりとなろうが、ちゃんと拾ってくれよ。 ・好收:ちゃんと収める。(口語じみているが)。 ・好:よし。いいだろう。「好收」を一句と見るかどうかで、意味が違ってくる。〔好+收・吾骨+瘴江邊〕(日本では「知汝遠來應有意」(〔知+汝・遠來+應有意〕)に惹かれ、「好し 吾が骨を收め…」と読んでの解釈となる)。 ・收:おさめる。なおす。取り入れる。いれる。 ・吾骨:わたしの遺骨。そこで死ぬことを表す。韓愈のこの時の左遷の原因は『論佛骨表』という上表文に因るが、「『吾骨』も『佛骨』も、なぜか骨に拘っている。 ・瘴江:(南方の熱病の)毒気の漂う川。