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劉希夷の詩 白頭吟


劉希夷の二つの代表作のうち、女性の一生を歌ったもの。

白頭吟  (代悲白頭翁) 劉希夷
洛陽城東桃李花、飛來飛去落誰家。
洛陽女兒惜顏色、行逢落花長歎息。
今年花落顏色改、明年花開復誰在。
已見松柏摧爲薪、更聞桑田變成海。
古人無復洛城東、今人還對落花風。

年年歳歳花相似、歳歳年年人不同。
寄言全盛紅顏子、應憐半死白頭翁。
此翁白頭眞可憐、伊昔紅顏美少年。
公子王孫芳樹下、清歌妙舞落花前。

光祿池臺開錦繍、將軍樓閣畫~仙。
一朝臥病無人識、三春行樂在誰邊。
宛轉蛾眉能幾時、須臾鶴髮亂如絲。
但看古來歌舞地、惟有黄昏鳥雀悲。


洛陽の街の東の桃李の花は、(花びらは)ひらひらと風に舞い、どこらあたりに散ったのか。
洛陽の少女は、色香を出し惜しみ、やがて、(人生の晩春の)落花の時節に出逢って、長いため息を吐(つ)く。
今年は、(もう)花が散り落ちて、花の色香が改まったが、明年、花が咲き開く時には、誰か(その女(ひと)は)まだ在(い)るだろうか。
すでに、大変革(松やコノテガシワのような千年も長く繁茂する樹木も、一旦砕かれるとマキとなってしまうこと)が見受けられた。更にその上、桑田が變じて海と成ることを聞く。
昔の(あの知り合いの)人は、もう洛陽の東の郊外には住んではいなく、今、ここに残っている人は落花の無常の風に対面している。

毎年、花は同じような色香のものを著けるが、毎年、人は同じようにいることができるのであろうか
分かって下さい、今を盛りとする若者よ。(この)半死の白髪の老人を憐れんでください。
この老人の白髪は、まことに憐れむべきようすで、これ(白髪の老翁)は、昔は若々しい美少年であった。
貴公子たちが香しい樹の下で、麗しい歌やおどりを散りゆく花の下で行っている。

高官のお屋敷の庭の池の畔の高台では麗しい情景が展開され、後漢の権臣である大將軍・梁冀が楼閣に神仙の像を描かせた(ように勢威がある状態ではあっても)。
ある日、病に臥してしまっては、交際する知りあいもいなくなり、春季の行楽はどの辺りで行われているのか。(病に臥せって、一人で家にいると知るよしもない。)
蛾の触角のようになめらかな弧を描いた眉の美女もその若さと美貌を誇れるのは、どれくらいの期間可能なのか。
蛾の触角のようになめらかな弧を描いた眉の美女もその若さと美貌を誇れるのは、どれくらいの期間可能なのか。忽ちにして白髪になって糸のように乱れることだろう。
古来からの歌舞・遊興の地で繁華でもあった、たそがれに、小鳥が悲しげに啼いている(姿が)あるだけである。



洛陽城東桃李花
洛陽の街の東の桃李の花は。
 ・洛陽:唐代の東都。首都・西都たるべき長安とともに、当時のみやこ。 ・城:街。都市。 ・桃李花:モモやスモモの花。春を代表する花。美しいものを指す。

飛來飛去落誰家
(花びらは)ひらひらと風に舞い、どこらあたりに散ったのか。
 ・〜來〜去:(…して)行ったり来たり。動詞性の用言の後に附く。 ・落誰家:どの辺りに落ちるのか。「家」は、必ずしも建物の「いえ」のみをいっていない。 ・誰家:だれ。どこ。 

洛陽女兒惜顏色
洛陽の少女は、色香を出し惜しみ。
 ・顏色:顔の色。色、というだけの意味もあるが、ここは前者。「洛陽女兒好顏色」ともする。その場合は、「洛陽の少女は、好しき顏色で」、となる。勿論、「洛陽の少女は、色を好み」等ではない。蛇足だが、「好色」は、日中同義だが…。

行逢落花長歎息
やがて、(人生の晩春の)落花の時節に出逢って、長いため息を吐(つ)く。
婚期、好機を逸することをいう。 ・行:やがて。まさに…しようとする。行将。近い将来のことを表す表現

今年花落顏色改
今年は、(もう)花が散り落ちて、花の色香が改まったが。

明年花開復誰在
明年、花が咲き開く時には、誰か(その女(ひと)は)まだ在(い)るだろうか。(もう、いまい)。

已見松柏摧爲薪
すでに、大変革(松やコノテガシワのような千年も長く繁茂する樹木も、一旦砕かれるとマキとなってしまうこと)が見受けられた。
 ・「松柏摧爲薪」:松やコノテガシワのような千年も長く繁茂する樹木も、一旦砕かれるとマキとなってしまう、ということの言。


更聞桑田變成海
更にその上、桑田が變じて海と成ることを聞く。
「桑田變成海」は「滄桑之變」=「滄海桑田」=「滄桑」のこと。滄海が変じて桑畑になることで、世の中の変化の激しいことをいう。

古人無復洛城東
昔の(あの知り合いの)人は、もう洛陽の東の郊外には住んではいなく。
 ・古人:古い知り合い。 ・無復:もう居ない。二度とは居ない。再びは、いない。全然…ない。また…なし。「復」は語調を整え、強めるためでもある。

今人還對落花風
今、ここに残っている人は落花の無常の風に対面している。
 ・今人:前出「古人」に対応して使っている。 ・還:なおも。なおもまた。 ・對:…に対している。…に向かっている。 ・落花風:花を散らし、(ふりゆく年月を暗示する)無常の風。

年年歳歳花相似
毎年、花は同じような色香のものを著けるが。
この聯「年年歳歳花相似,歳歳年年人不同。」は、「花=自然界:営みは不変」と「人=人間界:営みは容易に変遷していく」ということを対比させて展開している。 ・年年歳歳:毎年。

寄言全盛紅顏子
分かって下さい、今を盛りとする若者よ。言葉を与えますが、(悟ってください)今を盛りとする若者のみなさん。
・寄言:言葉を与えて人に悟らせる。言づてをする。ここは前者。・全盛:今を盛りとする。・紅顏子:若者。 ・子:人。

應憐半死白頭翁
(この)半死の白髪の老人を憐れんでください。「須憐半死白頭翁」ともする。

此翁白頭眞可憐
この老人の白髪は、まことに憐れむべきようすで。

伊昔紅顏美少年
これ(白髪の老翁)は、昔は若々しい美少年であった。
 ・伊:これ。かれ。代詞。

公子王孫芳樹下
貴公子たちが香しい樹の下で。 
・公子王孫:貴公子たち。

清歌妙舞落花前
麗しい歌やおどりを散りゆく花の下で行っている。
 ・清歌妙舞:こういう文型〔ab a'b'〕
の意は、「甲や乙」ということ。「『清歌』や『妙舞』」ということ。「『清歌』と『妙舞』」ということではな
い。

光祿池臺開錦繍
高官のお屋敷の庭の池の畔の高台では麗しい情景が展開され。
 ・光祿:光祿勳(光禄勲)の
ことで、ここでは、前漢時、光禄勲であった王根のこと。高官の意で使われている。光祿勲は前漢の官制で、九卿の一。宮殿の掖門を警護する役目で、武帝の武帝の太初元年に名称を「郎中令」から「光祿勳」と改められて、設置される。 ・錦繍:にしきと縫い取りで、美しいものの喩え。「光祿池臺文錦繍」ともする。

將軍樓閣畫神仙
後漢の権臣である大將軍・梁冀が楼閣に神仙の像を描かせた(ように勢威がある状態ではあっても)。

一朝臥病無人識
ある日、病に臥してしまっては、交際する知りあいもいなくなり。

三春行樂在誰邊
春季の行楽はどの辺りで行われているのか。(病に臥せって、一人で家にいると知るよしもない。)
 ・三春:春の三ヶ月で、孟春(陰暦正月)、仲春(陰暦二月)、季春(陰暦三月)のこと。行樂:遊び楽
しむ。外出旅行して遊ぶ。 ・在誰邊:どこであるのか。

宛轉蛾眉能幾時
蛾の触角のようになめらかな弧を描いた眉の美女もその若さと美貌を誇れるのは、どれくらいの期間可能なのか。(あっという間に年月は過ぎ去ってしまうぞ) ・宛轉:〔ゑんてん〕眉の美しく曲がるさま。 ・蛾眉:〔がび〕ガの触角のような(美しい形の)マユ(をひいた化粧)をしている(若くて美しい)女性。蛾の触角のようになめらかな弧を描いた眉で美女のことをいう。 ・能:よく。 ・幾時:どれほど。

須臾鶴髮亂如絲
忽ちにして白髪になって糸のように乱れることだろう。
 ・須臾:〔しゅゆ〕忽ち。また、暫時。しばらく。すこしのひま。ここは、前者の意。 ・鶴髮:白髪。ここでは動詞として、白髪になる、意で使っている。「須臾白髮亂如絲」ともする。

但看古來歌舞地
古来からの歌舞・遊興の地で繁華でもあった(ここも、現在では、)ただ……を見かけるだけだ。

惟有黄昏鳥雀悲
たそがれに、小鳥が悲しげに啼いている(姿が)あるだけである。
 ・惟有:ただ…だけがあ
る。



白頭吟 (白頭を悲しむ翁に代りて)
                       
洛陽 城東  桃李の花,
飛び來り 飛び去りて  誰が家にか 落つる。
洛陽の女兒  顏色を 惜しみ,
行(ゆくゆ)く 落花に逢ひて  長歎息す。
今年 花 落ちて  顏色 改まり,
明年 花 開きて  復た 誰か在る。
已(すで)に見る  松柏の摧(くだ)かれて薪と 爲るを,
更に聞く  桑田の  變じて 海と 成るを。
古人 復(ま)た  洛城の東に 無く,
今人 還(なほ)も 對す  落花の風。
年年 歳歳  花相(あ)ひ似たれども,
歳歳 年年  人同じからず。
言を寄す  全盛の 紅顏子,
應に憐むべし 半死の白頭の翁。
此の翁 白頭  眞に憐む可(べ)し,
伊(こ)れ 昔 紅顏の美少年。
公子 王孫  芳樹の下,
清歌 妙舞  落花の前。
光祿の 池臺に  錦繍を開き,
將軍の 樓閣に  ~仙を畫(ゑが)く。
一朝 病ひに臥して  人の識る無く,
三春の行樂  誰が邊にか 在る。
宛轉たる 蛾眉  能(よ)く 幾時ぞ,
須臾にして 鶴髮  亂れて 絲の如し。
但(た)だ 看る  古來  歌舞の地,
惟(た)だ 黄昏に 鳥雀の悲しむ有るを。



劉希夷の二つの代表作。公子(男性)の一生を歌ったもの



公子行 劉希夷(劉廷芝) 
天津橋下陽春水、天津橋上繁華子。
馬聲廻合青雲外、人影搖動鵠g裏。
鵠g蕩漾玉爲砂、青雲離披錦作霞。
可憐楊柳傷心樹、可憐桃李斷腸花。
此日遨遊邀美女、此時歌舞入娼家。
娼家美女鬱金香、飛去飛來公子傍。
的的珠簾白日映、娥娥玉顏紅粉妝。
花際裴回雙夾蝶、池邊顧歩兩鴛鴦。
傾國傾城漢武帝、爲雲爲雨楚襄王。
古來容光人所羨、況復今日遙相見。
願作輕羅著細腰、願爲明鏡分嬌面。
與君相向轉相親、與君雙棲共一身。
願作貞松千歳古、誰論芳槿一朝新。
百年同謝西山日、千秋萬古北亡塵。

洛陽の都の天津橋の下を流れる、暖かな春の時節の水、洛陽の都の天津橋の上を行き交う、今を盛りと栄えている貴公子(たち)。
馬の嘶きが交わり合って青空の彼方にまで伝わっていく、人の姿が緑色の波の内に(反射して)揺れ動いている。
緑色に澄んだ波は、揺れ動き漂って、(恰も)玉(ぎょく)を砂にした(かのようである)、青空が離れ拡がって、(恰も)錦(にしき)を夕焼けにした(かのようである)。
憐れむべし、楊柳の緑は傷心の樹で、憐れむべし、桃李は斷腸の花だ。
この日の遊びは美女を迎えて、此の時、歌舞遊興は妓楼に入り込んだ。
妓楼の美女は、鬱金香の香りがして、公子の傍(かたわ)らを、あちらこちらと漂った。
きらきらと輝く宝玉製のスダレが、昼間の太陽に照り映えて、みめよいきれいな顔をした女性が、紅(べに)と白粉(おしろい)で、粧(よそお)っている。
花の周りをアゲハチョウが行ったり来たりしており、池の畔(ほとり)では、二羽の対(つがい)となったオシドリが左右をふり返りながら歩いている。
国を傾け、城を傾けさせると謂われるほどの絶世の美女(李夫人)を愛した漢の武帝、雲となり、雨となる(神女との契りを結んだ)楚の襄王(の情愛)。
昔よりずっと、顔や姿の美しいことは、人々が羨(うらや)ましいと思うところであり、(人々は、昔から、美女を羨望の的として思ってきたきたが)ましてやその上に、今日は(実際に)遙々(はるばる)と会いに来たのだ。 
願うことならば軽やかなうすぎぬとなって、(女性の)細い腰にまとわりつきたいものだ。願わくば、澄んだ鏡となって、可愛い顔を写し取りたいものだ。
あなたと向かい合っていると、ますます親しくなってきて、あなたと二人で、一緒になって住んで。できることならば、節操を守っていつも葉の色を変えない松のようになって、千年を経たい。
ムクゲのように、毎朝、新たに咲く(ものの、夕方には凋んでしまう)ような(儚い愛情は、)一体誰が考えましょうか。(長くても)百年、(人の生も)同様に西方の山に沈んでいく太陽(のように)沈んでいくのだ。(今、栄華を極めた人も)永遠の時間の後は、北 山の陵墓の塵土(になっている)。 
















天津橋下陽春水
洛陽の都の天津橋の下を流れる、暖かな春の時節の水。
 ・天津橋:洛陽の都の南にあった橋。隋・煬帝が洛陽に都を遷した時、架した橋で、洛水を天の川に比して「天津」(天の川の渡し場)と名づけた。旧洛陽は洛水を挟んでおり、宮城の南に皇城があり、その正門が「端門」で、更にその真南にあるのが「天津橋」になる。この橋の道というのが、街路中央に御道(天子行幸路)が備えられた御成道であるという洛陽の代表的な道であり、この天津橋は、洛陽を代表的する橋になる ・陽春:陽気の満ちた暖かな春の時節。 ・水:ここでは、洛水川の流れのことになる。

天津橋上繁華子
洛陽の都の天津橋の上を行き交う、今を盛りと栄えている貴公子(たち)。
 ・繁華子:華やかに栄え賑わう若者(たち)。全盛を謳歌している貴公子(たち)。

馬聲廻合青雲外
馬の嘶きが交わり合って青空の彼方にまで伝わっていく。
 ・馬聲:馬の嘶き。 ・廻合:〔くゎいがふ〕めぐりあう。めぐり集まる。交わり合う。「迴合」ともする。 ・青雲:青みがかった雲。青空。 ・外:…の向こうまで。


人影搖動鵠g裡
人の姿が緑色の波の内に(反射して)揺れ動いている。
 ・人影:人の姿。 ・搖動:〔えうどう〕揺れ動く。 ・鵠g:緑色の波。「 波」とみれば、澄んだ水の波。 ・裡:…の内。ここでは、人影が川面に映っているさまをいう。

鵠g蕩漾玉爲砂
緑色に澄んだ波は、揺れ動き漂って、(恰も)玉(ぎょく)を砂にした(かのようである)。
 ・蕩漾:〔たうやう〕(水、波などが)揺れ動く。漂う。ここは「清迥」ともする。 ・玉爲砂:(恰も)玉(ぎょく)を砂にした(かのようである)。「以玉爲砂」の意。玉のような砂である。

青雲離披錦作霞
青空が離れ拡がって、(恰も)錦(にしき)を夕焼けにした(かのようである)。青空が分断されて、錦のような夕焼けになっている。
 ・離披:〔りひ〕分離するさま。離れ拡がる。花がぱっと開く。 ・錦作霞:(恰も)錦(にしき)を夕焼けにした(かのようである)。「以錦作霞」の意。錦のような夕焼けである。 ・作:なす。なる。 ・霞:夕焼けや朝焼け。中国の詩詞では、あまり「かすみ」の意では使わない。蛇足になるが、「かすみ状」の表現は「煙」「靄」「霧」「茫」…になろうか。


可憐楊柳傷心樹
憐れむべし、楊柳の緑は傷心の樹で。ああ、楊柳の木は胸に迫る緑色である。
風景に接して感情が盛り上がってくる。ここでは、春愁、惜春の情を謂う。 ・可憐:強く心に感じたさまを表す。普通では、いじらしく、かわいらしいこと。 ・楊柳:〔やうりう〕ヤナギの総称。「楊」はカワヤナギ。「柳」はシダレヤナギ。 ・傷心:〔しゃうしん〕心を傷(いた)めること。悲しく思うこと。

可憐桃李斷腸花
憐れむべし、桃李は斷腸の花だ。
 ・桃李:モモの花とスモモの花。 ・斷腸:〔だんちゃう〕腸(はらわた)を断ち切られるほどの悲しさ、辛さなどを謂う。

此日遨遊邀美女
この日の遊びは美女を迎えて。
 ・此日:この日。この陽春の一日。 ・遨遊:〔がういう〕あそぶ。 ・邀:〔えう〕迎える。求める。濫(みだり)に受ける。遇(あ)う。待ち受ける。 ・美女:容姿の美しい女性のことだが、ここでは、妓女のことになる。

此時歌舞入娼家
此の時、歌舞遊興は妓楼に入り込んだ。
 ・歌舞:歌うことと舞うこと。遊興。 ・娼家:〔しゃうか〕遊女を置いて客をとる家。妓楼。青楼。



娼家美女鬱金香
妓楼の美女は、鬱金香の香りがして。
 ・鬱金香:〔うっこんかう〕チューリップ。また、ミョウガ科の多年草で、キゾメグサ(鬱金)の香。ハルウコンの香。香草、ハーブの名。西域にあるウッコン草から採った香。

飛去飛來公子傍
貴公子の傍(かたわ)らを、あちらこちらと漂った。
 ・飛去飛來:飛び交う。 ・公子:諸侯や貴族の子息。・傍:かたわら。そば。

的的珠簾白日映
きらきらと輝く宝玉製のスダレが、昼間の太陽に照り映えて。
 ・的的:〔てきてき〕明るく輝くさま。 ・珠簾:玉スダレ。宝玉製のスダレ。 ・白日:照り輝く太陽。昼間の太陽。 ・映:照り映える。映じる。反射する。

娥娥玉顏紅粉妝
みめよいきれいな顔をした女性が、紅(べに)と白粉(おしろい)で、粧(よそお)っている。
 ・娥娥:〔がが〕美女の美しいさま。 ・玉顏:きれいな顔。 ・紅粉:(女性の化粧品の)紅(べに)と白粉(おしろい)。化粧品。 ・妝:〔さう(しゃう)〕化粧する。粧(よそお)う。



花際裴囘雙夾蝶
花の周りをアゲハチョウが行ったり来たりしており。
ヒオドシチョウ アゲハチョウ
『花の山』から賜りました
 ・花際:花の咲いている周り。 ・裴囘:〔はいくゎい〕うろうろするさま。また、うろつく。行ったり来たりする。たちもとおる。≒裴徊:〔はいくゎい〕(孔雀が)長い尾を曳きずるさま。衣服の長い裾を曳きずってうろうろするさ≒徘徊。 ・雙:つがいの。二匹の。 ・ 蝶:〔けふてふ〕ヒオドシチョウ。アゲハチョウ。

池邊顧歩兩鴛鴦:池の畔(ほとり)では、二羽の対(つがい)となったオシドリが左右をふり返りながら歩いている。 ・池邊:池の畔(ほとり)。池の傍(そば)。 ・顧歩:〔こほ〕左右をふり返りながら歩く。 ・兩:ここでは、二羽の。つがいの。 ・鴛鴦:〔ゑんあう〕オシドリ。オシドリの雌雄が常に離れることがないので、仲のよい夫婦に喩えられる。「鴛」は雄で「鴦」は雌ともする。

傾國傾城漢武帝
国を傾け、城を傾けさせると謂われるほどの絶世の美女(李夫人)を愛した漢の武帝。
 ・傾國傾城:国を傾け、城を傾けさせるほどの絶世の美女。漢代、歌手の李延年が武帝に自分の妹を絶讃して薦めた「歌」に基づく。
 ・傾國:国を傾けさせるほどの絶世の美女。 ・傾城:城を傾けさせるほどの絶世の美女。 ・漢武帝:漢の武帝。(前156年〜前87年)前漢第七代皇帝。劉徹のこと。漢帝国の基礎を確立させ、匈奴勢力を漠北から駆逐した。

爲雲爲雨楚襄王
雲となり、雨となる(神女との契りを結んだ)楚の襄王(の情愛)。
 ・爲雲爲雨:男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり、夕べには雨になるという故事からきている。婉約の詩詞     によく使われるが、千載不磨の契りという風ではなく、もう少し気楽な交わりを謂う。 ・爲雲:(神女は、朝は巫山の)雲となる。 ・爲雨:(神女は、夕べには巫山の)雨になる ・楚襄王:〔そ・じゃうわう〕楚の襄王。宋玉の『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの)があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。婉約の詩歌でよく使われる。「巫山之夢」。李白の『清平調』三首之二に「一枝紅艷露凝香,雲雨巫山枉斷腸。借問漢宮誰得似,可憐飛燕倚新粧。」 と詠っている。



古來容光人所羨
昔よりずっと、顔や姿の美しいことは、人々が羨(うらや)ましいと思うところであり。 ・古來:昔から今に至るまで。昔より。 ・容光:〔ようくゎう〕顔や姿の美しいこと。風采。ようす。俤。 ・人所羨:人々の羨(うらや)むところである。 ・所-:…するところ(のこと)。動詞の前に附き、動詞を名詞化する。また〔被+(名詞)+所(動詞)〕として、受身表現をする。

況復今日遙相見
(人々は、昔から、美女を羨望の的として思ってきたきたが)ましてやその上に、今日は(実際に)遙々(はるばる)と会いに来たのだ。 
・況復:〔きゃうふく〕その上。それに加えて。 ・況:まして。いわんや。いはんや…をや。 ・今日:ここでは、男性と女性が出会った日。 ・遙:さまよう。ぶらぶらする。また、遥かに。遠い。長い。遙々(はるばる)と。 ・相見:会う。

願作輕羅著細腰
願うことならば軽やかなうすぎぬとなって、(女性の)細い腰にまとわりつきたいものだ。
 ・願作:…になりたい。願望を表し、この語の後に願望の句が来る。後出「願爲」と同じ。

漢の烏孫公主・劉細君の『悲愁歌』
吾家嫁我兮天一方,遠託異國兮烏孫王。
穹盧爲室兮氈爲牆,以肉爲食兮酪爲漿。
居常土思兮心内傷,願爲黄鵠兮歸故ク。

 ・輕羅:軽やかなうすぎぬ。 ・著:つく。 ・細腰:〔さいえう〕女性の細い腰。楚の霊王が細い腰を好んだという。

願爲明鏡分嬌面
願わくば、澄んだ鏡となって、可愛い顔を写し取りたいものだ。 ・願爲:…になりたい。前出「願作」と同じ。 ・明鏡:澄んだ鏡。 ・分:分かつ。ここでは、美しい顔の貌を写し取る意となる。 ・嬌面:可愛い顔。愛くるしい顔。艶やかな顔。

與君相向轉相親
あなたと向かい合っていると、ますます親しくなってきて。 ・與君:あなたと。ここでの「君」とは、男性側を指す。 ・相向:向かい合って。 ・轉:〔てん〕ますます…となってくる。一層…となってくる。かえって…となってくる。何となく。うたた。 ・相親:親しくしていき。

與君雙棲共一身
あなたと二人で、一緒になって住んで。 ・雙棲:夫婦や、つがいのように両者が一緒になって住む。 ・共一身:我が身と(貴男の身を)共にして。夫婦として。 ・一身:自分の一つの身体。自分自身。全身。

願作貞松千歳古
できることならば、節操を守っていつも葉の色を変えない松のようになって、千年を経たい。 ・貞松:〔ていしょう〕操の堅い松。節義を守って冬にも葉の色を変えない、常青の松。 ・千歳古:千載不磨の契りを交わす。 ・千歳:千年。 ・古:古(ふ)る。動詞。

誰論芳槿一朝新
ムクゲのように、毎朝、新たに咲く(ものの、夕方には凋んでしまう)ような(儚い愛情は、)一体誰が考えましょうか。
*ここまでの数聯が男女の睦言。 ・誰論:一体誰があげつらおうか。 ・論:〔ろん〕論じる。あげつらう。述べ語ること。考える。(物事の道理を)述べる。言い争うこと。動詞。 ・槿:芳(かぐわ)しいムクゲ。 ・槿:〔きん〕ムクゲ。花は、アサガオのように朝に開いて、夜には凋(しぼ)む。一朝だけの儚(はかな)い花。色には淡紅・白・淡紫色などがある。木槿。 ・一朝:ひと朝(毎に)。一日の朝(だけ)。 ・新:新たにする。動詞。ここでは、「新たに(咲く)」の意になる。

百年同謝西山日
(長くても)百年、(人の生も)同様に西方の山に沈んでいく太陽(のように)沈んでいくのだ。  ・百年:人の生の最大値である。 ・同:同じく。同様に。 ・謝:〔しゃ〕去る。辞去する。世を去る。死ぬ。衰える。散る。凋む。 ・西山日:西方の山に沈んでいく太陽。

千秋萬古北?塵
(今、栄華を極めた人も)永遠の時間の後は、北 山の陵墓の塵土(になっている)。 ・千秋萬古:永遠に。とわに。永久に。 ・千秋:千年。 ・萬古:遠い昔。大昔から今に至るまで。永久。 ・北 塵:北 山の陵墓の塵土(に帰っていくこと)。亡北 :〔ほくばう〕北 山のこと。洛陽の北にある陵墓が集まってある山。墓所をいい表す語である。洛陽の北20キロメートルの所を東西に広がっている。位置関係を南側からいえば、洛水が西南西から東北東に流れ、その北側にも洛陽の市街が広がっている。その20キロメートル北に、北 山が東西に60キロメートル横たわっている。その更に北側を黄河が流れている。。 ・塵:〔ぢん;chen2○〕塵土。土に帰ること。



天津橋下  陽春の水
天津橋上  繁華の子。
馬聲 廻合(くゎいがふ)す  青雲の外,
人影 搖動(えうどう)す  鵠gの裏。
鵠g 蕩漾(たうやう)として  玉を 砂と爲し,
青雲 離披(りひ)として  錦を 霞と作す。
憐む可(べ)し 楊柳(やうりう)  傷心の樹,
憐む可(べ)し 桃李(たうり)  斷腸の花。
此の日 遨遊(がういう)して  美女を 邀(むか)へ,
此の時 歌舞して  娼家(しゃうか)に入る。
娼家の美女  鬱金香(うっこんかう),
飛び去り 飛び來(きた)る  公子の傍(かたはら)。
的的たる 珠簾  白日に 映(は)え,
娥娥(がが)たる 玉顏  紅粉もて 妝(よそほ)ふ。
花際 裴回(はいくゎい)す  雙 ?蝶(けふてふ),
池邊 顧歩す  兩 鴛鴦(ゑんあう)。
國を傾け 城を傾く  漢の武帝,
雲と爲り 雨と爲る  楚の襄王(じゃうわう)。
古來 容光(ようくゎう)は  人の羨(うらや)む所,
況(いは)んや復(ま)た 今日  遙かに相ひ見るをや。
願はくは 輕羅(けいら)と作(な)りて  細腰(さいえう)に 著(つ)かん,
願はくは 明鏡(めいきゃう)と爲りて  嬌面(けうめん)を 分かたん。
君と 相ひ向ひて  轉(うた)た 相ひ親しみ,
君と 雙(なら)び棲(す)みて  一身を共にせん。
願はくは 貞松(ていしょう)と作(な)りて  千歳に古(ふ)りなん,
誰(たれ)か論ぜん  芳槿(はうきん) 一朝(いつてう)に新たなるを。
百年 同(おなじ)く 謝す  西山の日,
千秋 萬古  北?(ほくばう)の塵。