田園楽七首 1 千門 |
田園楽七首 2 再見 |
田園楽七首 3 採菱 |
田園楽七首 4 芳草 |
田園楽七首 5 山下 |
田園楽七首 6 桃紅 |
田園楽七首 7 酌酒 |
1孟城幼 もうじょうおう |
2華子岡 かしこう |
3文杏館ぶんきょうかん |
4斤竹嶺 きんちくれい |
5鹿柴 ろくさい |
6木蘭柴 もくらんさい |
7茱萸拌 しゅゆはん |
8宮塊陌 きゅうかいはく |
9臨湖亭 りんこてい |
10南 陀 なんだ |
11欹 湖 いこ |
12柳 浪 りゅうろう |
13欒家瀬らんからい |
14金屑泉 きんせつせん |
15白石灘はくせきたん |
16北 陀 ほくだ |
17竹里館 ちくりかん |
18辛夷塢 しんいお |
19漆 園 しつえん |
20椒 園 しょうえん |
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あらすじ |
10代後半の王維は、皇帝の弟から寵愛されます。 詩を書き、書がうまく、絵はこれがまた抜群のでき、そして、琵琶を引かせるとうっとりさせました。そのうえ、美 男子ですから、貴族の間で評判になり、引く手あまたでした。若いころの詩にはイケメンでおませな一面をのぞ かせています。 719年 科挙に合格しますが、翌年から済州に足かけ5年左遷されます。 左遷されてから、貴族社会の男女の交際に疑問を持ち始めたころ、ある女性と出会います。美しい女性だ ったのですが身分的に問題がありました。この頃の結婚は、階級に違いがありすぎると結婚できません。すると すれば、役人をやめることになります。王維は科挙にも及第しています。税金を払わないでいい階級でしたか ら、彼女と逢うのも人目をはばかったものでした。 王維は左遷された20代前半から付き合っていましたが、長安に変える別れの日が来ます。しかし、長安に帰 ると今度は、蜀に赴任します。この時から、彼女と一緒にいたのではないかと思われます。2年後長安に帰ると 洛陽近郊の地方官の役に付きます。王維は30歳を迎えます。 |
■ 王維の結婚 |
・728年 三十歳になった王維はいろいろな諸事情はありましたが、「文陽の人」と結婚します。王維の結婚や妻についてはほとんど知られておらず、妻の死後、二度と妻を娶らなかったことだけは伝えられています。 ・729年 玄宗は開元十七年、自らの誕生日の八月五日を千秋節と名づけて興慶宮で盛大な祝宴を催しました。王維はこの祝宴に際して応制の詩(天子の御製に奉和する詩)を作っています。王維はこのころ孟浩然(もうこうねん)と都で知り合い交際をしていますが、罔川(もうせん)の家で田園生活に入ったようです。孟浩然もここ罔川荘をたびたび訪れている。?川の家は宋之問(則天武后時代の宮廷詩人)の古い別荘を買い取ったもので、王維はその家に蒲州の母も呼び寄せ一緒に暮らしはじめました。 「田園楽七首」は六言四句のめずらしい詩です。六言の句は二言を繰り返すので、啖呵を切るような歯切れのよい詩になります。この詩には即興で作ったという意味で「筆を走らせて成る」という題注が付されています。 |
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田園楽七首 其一 |
出入千門万戸、経過北里南隣。 出入りしている 千の門 万の家、 経過する 北の里 南の隣人 燮喋鳴珂有底、啌洞散髪何人。 燮喋(しょうちょう鈴凛)と珂(か)を鳴らして底(裏)がある、啌洞(こうとう)に振り乱した髪の何人かいる |
田園楽七首 其一: 其の一はいまの世にときめく人を皮肉った詩で、出入千門万戸:あそこの邸こちらの館に出入りして経過北里南隣:北へ南へ 近隣を押し通る燮喋鳴珂有底:しゃらしゃらと玉の轡を鳴らしてゆくが 意味があるのか ・「燮喋」(しょうちょう)は鈴や玉の鳴るようす。「燮喋」は『荘子』に出てくる伝説の山であるが、終南山にある岩窟のひとつとも考えられている。 啌洞散髪何人:啌洞にざんばら髪がいるという 何者か そこにざんばら髪の隠者が棲んでいるというのですが、王維自身のことを言っているのかも知れません。 |
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田園楽七首 其二 |
再見封侯万戸、立談賜璧一双。 二度ほどお目通りして万戸の侯になり、立ち話をしただけで 璧玉一双を下される 渠勝嵎耕南畝、如何高臥東窓。 これよりいいものがあるだろうか南の田圃を耕すいことと、どうだろうか、ゆったりと寝ころべる東の窓辺 |
田園楽七首 其二: 其の二の詩も当時の官界の軽薄なようすを皮肉っています。 再見封侯万戸:二度ほどお目通りして万戸の侯になり 人は簡単に万戸侯に封ぜられ、璧玉(へきぎょく)のご褒美をもらっているが、どんな良いものを貰うよりも田園に閑居するのほうがはるかにいいものだと価値感、社会観の違いをのべます。 。 立談賜璧一双:立ち話をしただけで 璧玉一双を下される 渠勝嵎耕南畝:南の田圃を耕すよりもいいことか 如何高臥東窓:東の窓辺で休むのと どちらであろう 詩中の「南畝」(なんぽ)は「東窓」(とうそう)と対句になっていますので、方向にこだわる必要はありませんが、南・東とあったほうが、なんとなく具体性があり、明るい感じが出るようです。 |
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田園楽七首 其三 |
田園楽七首 其三 採菱渡頭風急、策杖村西日斜。 菱を採っていると渡し場に風が吹き、杖をついて歩けば村の西に日が沈む 杏樹壇辺漁夫、桃花源裏人家。 杏樹の壇のそばに漁夫がおり、桃花源にも ちらほらと家がある |
田園楽七首 其三:罔川での田園生活を描いています 採菱渡頭風急:菱を採っていると 渡し場に風が吹き 策杖村西日斜:杖をついて歩けば 村の西に日が沈む 杏樹壇辺漁夫:漁夫がひとり 杏壇のほとりに坐し 「杏樹壇辺の漁夫」は『荘子』漁夫篇からの引用です。孔子の杏壇(きょうだん)で弟子たちが書を読み、孔子が琴を奏していると、漁夫が舟から降りてきて琴に耳を傾けたという話を踏まえています。 桃花源裏人家:桃花源にも ちらほらと家がある 「桃花源」は陶淵明の『桃花源記』で、そんな仙境にも人家はあるというのです。 |
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田園楽七首 其四 |
田園楽七首 其四 萋萋芳草春緑、落落長松夏寒。 さあっとほのかな草のかおり春はみどり 、落落と日陰の長い松が夏をすずしくする 牛羊自帰村巷、童稚不識衣冠。 牛や羊は自分で村に帰り、童子らは役人の姿を知らぬ |
田園楽七首 其四: もう川の田園生活を描いています。 萋萋芳草春緑:春はみどり 生い茂る草の薫りよ 落落長松夏寒:夏は涼しい 伸びすぎた松の梢よ 牛羊自帰村巷:牛や羊は 自分で村に帰り 「牛羊 自ら村巷に帰り」の牛羊は王維の好きな家畜で、『詩経』王風にも出てくる放牧風景です。 童稚不識衣冠:童子らは 役人の姿を知らぬ 其の四の詩もこの詩では「童稚は衣冠を識らず」と村童の素朴な姿を言葉鋭くとらえることによって、政事を批判しています。 |
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田園楽七首 其五 | |
山下弧煙遠村、 山の麓にひとすじの煙が昇る 遠い村 天辺独樹高原。 天にもとどく一本の樹がある 高原 一瓢顔回陋巷、 一箪一瓢 顔回は陋巷に在り 五柳先生対門。 陶淵明は 門に向かって立っている |
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解説 其の五の詩では、起承句の遠村の弧煙と高原の独樹が、王維の尊敬する人物を思い出させます。「顔回」(がんかい)は孔子の弟子として有名ですし、『論語』雍也に「賢なるかなや、一?(いったん)の食(し)、一瓢(いっぴょう)の飮(いん)、陋巷に在り」という名言があります。「五柳先生」は陶淵明のことで、自宅に五本の柳の木があったことから、みずから「五柳先生」と称しています。 孔子の弟子:顔回 五柳先生:陶淵明 |
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田園楽七首 其六 | |
桃紅復含宿雨、 桃花は紅に、また含むゆうべよりの雨で 柳緑更帯春煙。 柳緑は更に帯びる春のかすみで 花落家童未掃、 花が散り落ち、召使いの少年は掃除をしない 鶯啼山客猶眠。 ウグイスが鳴く、山荘の客人はなお眠ったまま |
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桃の花は、夕べの雨を含んでつやつやといっそう紅色あざやか、 柳は青さを増して、春のかすみにけむる 花が庭先に散り敷かれている、召使いの少年は掃き清めたりはしない。 ウグイスがしきりに鳴くのに山荘のあるじはまだまだ夢うつつ。 この詩は孟浩然の「春暁」と唱和したように心になじんでくる。 詳細が知りたい > 孟浩然とのページに |
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田園楽:春のぼんやりした、けだるい情景の中で。 王維は高級官僚でしたが、孟浩然のように自然の中での暮らしを愛しました。妻との早い死別れがそれを強めたのでしょう。宮使いの合間に、都の郊外にある山荘で悠々自適の生活を楽しんだのです。 こうした生き方を『半官半隠』といいますが、王維は地位や名誉は必ずしも心を満たすものではないと思っていました。 桃紅復含宿雨:桃の花は夕べの雨を含んで、つやつやと赤く。 ・宿雨:前日から降り続いている雨。 柳緑更帯春煙:柳は青さを増して、春の雨靄が漂っている。 ・春煙:雨靄。 花落家僮未掃:(その鮮やかな花が雨に打たれて、庭に落ちている。)庭に散り敷かれた花はそのままにして、召使にはかせたりはしない。 ・家僮:召使。 鶯啼山客猶眠:鶯がしきりに鳴くなか、山荘の主は、夢うつつ。 ・山客:山荘の主。王維のこと。 雨と靄、遠くの景色は春煙で水墨画の様なモノトーンの世界、その中に桃の紅と柳の緑が色あざやかに詠い込まれる。 雨に濡れた庭の土はもっとも黒い。その上に散り敷かれた花、花びらも美しいのだろう。急いで召使に履かせたりはしない。自然のまま、自然の風情が一番きれいだ。鶯が鳴く中、朝寝坊をする 休みはたっぷり取って山荘でのんびり田園生活する。 其の六の詩は王維の生活そのものを詠っており、春の朝の景を写した詩として、王維の佳作のひとつに数えられています。対句も見事で、完成された詩美がうかがえます。ところで、「桃紅」を妻?陽の人、「柳緑」を王維自身の比喩と見れば、はなはだ意味深長な情景が想像されます。「山客」つまり王維自身は鶯が鳴いても眠っており、「家僮」は夫婦の朝寝に遠慮して、庭も掃除しないでいるという詩になるわけです。 |
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田園楽七首 其七 |
酌酒会臨泉水、 酒を飲むには もってこいの泉水があり 抱琴好倚長松。 琴を抱いて もたれかかる松もある 南園露葵朝折、 南園、 葵は露のやどる朝に摘み 東舎黄梁夜舂。 東の家の黄梁では 夜ごとに粟を搗いている |
其の七の詩も王維の田園生活のもようです。酌酒抱琴の二句はやや類型化した表現ですが、転結句は独自性のある表現になっていると思います。「南園」と「東舎」は対句表現ですので、南と東にこだわる必要はなく、近所の家で「黄梁は夜に舂く」というのは、杵を搗く音とともに村の生活のようすがリアルに写されていると思います。 |